先輩とわたしの一週間
 葛城ともう一人、営業部のトップを走る中条雅人《ちゅうじょうまさと》、が社内でも美形だと評判が高い。これに秘書課の五月弥生(さつきやよい)が加わって、華の同期組とまで呼ばれていると聞いた時の晴香といえば

「なにかの漫画かドラマかと思いましたよね」
「待て、なんだそれそんなくっそ恥ずかしい呼ばれ方してんのか!?」
「かえって笑えました」
「じわっとムカつくなお前」
「中条先輩と五月先輩は美男美女だなあと思うんですけど」
「俺の話を流す上にそこで俺を外すお前の度胸はすげえよな」
「違うんですよ人の話はちゃんと最後まで聞いてくださいよ先輩。いいですかあのですね先輩はもう先輩というカテゴリに属しているのでイケメンだとかそんなふわっとした認識ではないんですよ」
「お前のその話こそふわっとしてねえか?」
「先輩は先輩なんです!」
「もしかしなくてもお前わりとすでに酔ってんな? あ? そんなすぐ酔うタイプだったか?」
「わたしの中では先輩というジャッジしかないので先輩がイケメンだよねとか同意を求められてもああうんそうだよね多分そう、って話を適当に合わせるしかなくて」
「とりあえずいいからお前水飲め水」

 ほら、と水の入ったグラスを葛城は晴香に握らせる。素直にグラスの中を飲み干した晴香であるが、酔いを醒ますにはすでに遅かった。そこからはもうグダグダとした話が続いて行く。会話が途切れるわけではないが、酔っ払いが相手であるからして話があっちこっちに飛び回る。いつもより早い時間になるが、これは解散の頃合いかと葛城は腕時計に目をやり電車の時間を思い浮かべた。今ならまだ余裕がある。晴香を駅まで送っても自分の電車に間に合うだろう。

「日吉」

 そろそろ帰るか。
 そう続けようとした葛城に向かい、晴香からとんでもない剛速球が飛んできた。

「先輩――処女って面倒くさいんですかね?」


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