キミの恋のはじまりは
意味がわからなくてじっとそれを見つめたまま動けないでいると、泉は私の手を取って、その上に紙袋をそっと置いた。



「今年は初めてのちゃんとした…っていうか、両想いの…バレンタインだし。俺から莉世になにかしたいなって思っててさ」



睫毛を伏せた目元をほんのりと赤くしながらどこか拗ねたように言葉をこぼすから、手の中にある紙袋が大事なものに変わっていく。



「去年、莉世がここのチョコすごく好きで自分用に買ったって言ってたから、喜んでくれるかなって思ったんだ」

「……よく覚えてたね」

「あのさ、俺、今まで莉世が話してくれたこと大概覚えてるからね?俺の片想い、侮んないでくれる?」



目元を隠していた睫毛が上向けば、恨めしそうな熱を含んだ視線に捕まって、どくんっと心臓が大きく脈打った。



「今日、これ買った帰りに花島に会って、何買ったのかって袋奪われて。莉世が見たのって多分それ返してもらったところだよ。……顔寄せ合ってとか、触られたとか…、それは全然意識してなかった。…ごめん」

「……」

「ほんとは、バレンタイン当日に渡したかったのに。カッコつかない。なんか俺いつもダサいし、重いし……。自分がキモくて怖いわ…」



泉は前髪をくしゃっと握りつぶして、バツが悪そうに眉を寄せた。

手の中にある紙袋の中から、きれいにラッピングされた箱を取り出して見ると、とたんに涙腺が緩み出す。


さっきまで、あんなに黒い煙で占められていた気持ちが、急にふわふわと浮ついてくる。

泉が私のことを想って用意してくれていたなんて、思ってもみなかった。

一緒にいない時も、お互いの事を想って繋がっていたんだと思うと、心が満たされていく。


浮かんできた水分を瞬きで乾かして泉を見上げると、どうにも気まずそうに瞳を揺らしていた。

冬の冷たい空気の中で、月明かりを受けて鈍く輝く泉の瞳の中に自分を見つければ、心の奥からじんわりとあたたかさが湧いてくる。



「……ダサいのも、重いのも、キモいのも、すき」

「……いや、そこは否定して欲しいっていうか…」

「ふふ。チョコ、ありがとうね。すごい嬉しい」

「…ん。ならよかった」



泉がほっとしたように眉尻を下げて微笑んだ。


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