キミの恋のはじまりは
だんだんと滲んできた世界を留めようと唇を噛み締めると、ふっと笑いを溢すような息遣いが聞こえて耳元に泉の声が落ちてきた。
「……俺は莉世の、ね?」
柔らかく小さな、私だけに聞こえるボリュームの囁き。
その声を頼りに視線を上げれば、ゆるりと細められるダークブラウンの甘い瞳が優しく私に向けられていた。
泉が淡く笑みをこぼせば、目が眩むようなときめきに支配されてきゅんと心臓が鳴る。
さっきまでとは違う種類のじんわりと浮かんだその水分が堪えきれず落ちそうになった時、泉の手が私の後頭部をくいっと引き寄せ視界が塞がれた。
一粒だけ滑り落ちた涙が、泉の制服に染み込んでいった。
……私の、私だけの泉。
心の中で噛み締めると、それは甘くてふわふわと気持ちを柔くする。
顔に触れる泉の制服の香りを吸い込めば、濃い気配が体中に充満して私を染めてくれた。
私を包み込む泉の香りに浸りかけたとき
「星花女子の…ってことは?!」
「うわさの?!」
「えっっ……やばいんですけどっ?!」
女の子たちの黄色いざわめきが聞こえて、はっと我に返ると頬が熱くなる。
……やばいって……。
……確かに…。
はい…、自分でもそんな気がしています……。
熟れて膨らんでいた気持ちがすぅぅっと萎んだ。
掴んでいた泉のブレザーの裾を離して、離れようと私の頭を抱く泉の腕に手をかけると
「すみません、彼女来たんで」
さらっと無機質に告げる声と同時に、頭を包んでいた手は解かれ、私の手をとって歩き出した。