キミの恋のはじまりは
「……なんか最近、泉が優しい……」
とろりとした意識の中で呟けば、泉は襟元を寄せたパーカーを掴んだまま動きを止めた。
吐息が届くんじゃないかというほど近くにある深いダークブラウンの髪がその目元を隠していて、泉の気持ちを覗くことができない。
「……気持ち悪い?」
聞かれて、こないだそんなこと言っちゃったんだったと思い出す。
「ううん、ただ……」
首を小さく振れば、私の揺れた髪が泉の手に落ちた。
「……ただ?」
「ふしぎ」
「不思議じゃないよ、普通だから」
「普通?」
「そ、普通」
「……そっか、これ普通なんだ」
そっか、これ普通なんだ。もう一度心の中で繰り返す。