純愛カタルシス💞純愛クライシス
☆☆☆
さめざめと泣いている若槻さんを前にして、思いっきり困り果ててしまった。しかもただ泣いてるだけじゃなく、ひどく泥酔している様子に、どうすりゃいいんだよと心の中でシャウトする。
「若槻さん、お店の迷惑になるから帰りますよ。よいしょっと」
美羽姉に仕事が終わったというLINEをして帰ろうとしたときに、スマホに連絡がきた。
「いつも編集部で使う焼き鳥屋にいるから、迎えに来て!」
声の様子でどうにも心配になり、それで来てみれば、この惨事である。若槻さんを抱きかかえて、なんとかお店を出たのだが。
「若槻さん、タクシー呼びますよ。家はどこですか?」
「帰らない、白鳥の家で飲み直す!」
「俺の家に行っても、お酒はありません。帰りますよ、ご自宅の場所を教えてください」
「絶対にヤダ! 白鳥の家に行く!! 行かなきゃダメなの、飲み直すんだから!」
「わかりました。本当にもう、しょうがないな……」
自宅に行って、お酒がない状況を見たら、水やお茶などを口にして、少しは落ち着いてくれるだろうと考え、千鳥足の若槻さんを引きずりながら帰路に着く。
「悔しい、めちゃくちゃ悔しい!」
「残念でしたね、若槻さん。今回頑張ったのに」
編集部で若槻さんの記事を載せようとした際に、他社の雑誌の先月号でそれと似通った内容が掲載されていることがわかり、若槻さんが手がけたネタが流れてしまった。
やっと巡ってきたチャンスを逃すことになり、次はいつその順番がまわってくるのかわからない。
(写真は記事の内容によって使い回すことができるけど、文章はそれができないもんな。シビアな世界だよ)
「白鳥ごめんね。休みだったところを無理言って撮影させたのに、ボツになっちゃてさ」
「俺は写真を撮るのが好きだから大丈夫だし。気にしないで」
「好きなことを仕事にしてるのに、どうしてこんなにつらいんだろ……」
俺の横で足を引きずるように進ませながら、ぽつりと呟く。
「前カレに言われたんだ。人の不幸を記事にするために仕事をするのは、頭がおかしいって」
「だから前に、ゴシップ記事を世の中に提供して、いろんな人間を貶めてるって言葉が出てきたんだ」
そういう俺も、その片棒を担ぐことを仕事にしてる。だけど美羽姉はなにも言わない。好きなことを仕事にしてる俺に『学くん、頑張って』と応援してくれる。
そう考えると本当に美羽姉は、できた彼女なんだろうな。
「ふん、そんなこと言うヤツ、こっちから振ってやった。おかげで清々したよ」
寂しげなまなざしで、それが嘘なのがすぐにわかった。強がる面持ちとは反対に、震えて告げられたセリフ。今以上に、つらいことを経験したのだろう。
「白鳥さ、髪型変わったよね。いい意味で、前よりも幼く見える」
「それは俺も思う。今までこんなふうに顔を出したことがないから、変な感じでもあるんだけど」
「変な感じなんだ。私は今のほうが好みだよ。白鳥の綺麗な性格が出てる気がするし」
「そうなんだ、ありがと……」
髪の毛をカットしてから美羽姉に逢っていないので、どんな感想を告げられるのか、楽しみで仕方ない。
抱えている若槻さんの足元が不意にグラつき、バランスを崩しかけた。
「おっと!」
体が傾いた瞬間、腰を落として抱きとめようとしたら、若槻さんの唇が俺の頬に触れる。頬といっても、限りなく唇に近いところだった。
「若槻さん、なにやってんだよ。こういうことはむやみやたらにしたら、絶対駄目なことだから」
「彼女、6つ年上なんでしょ。年下の彼女、ほしくない?」
「は?」
「二番目でもいいよ、私。雑に扱われても、文句言わない自信ある」
その言葉に、俺は迷うことなく若槻さんの体から腕を抜いて、その場にしゃがみ込ませた。
「いい加減にしろよ! 若槻さんが自暴自棄になる気持ちもわかるけど、人を巻き込んでまですることじゃない」
「慰めてよ。ひとりきりじゃ、もう立ち直れない……」
俺は黙ったまま、若槻さんの目の前に跪いた。
「白鳥、抱きしめてよ」
「若槻さん、そのワガママを俺にじゃなくて、次の仕事に使わないと」
言いながら、頭を撫でてあげた。
「若槻さんがいないときに、副編集長が言ってたよ。他社が目をつける記事に着目できたということは、若槻の視野が広がってきた証拠だって」
「私には『残念だったわね、運がなかったと思いなさい』しか言わなかった」
「慰めの言葉がなかったのは、次こそはヤってやるぞって若槻さんに頑張る力があることを見越して、あえて言わなかったんだと思う。実際に俺も、若槻さんがここまで荒れてるとは、全然思わなかったし」
俯いた若槻さんの両手に拳が作られて、ぎゅっと握りしめられる。
「みんなが思うほど、私は強くないよ……」
「だったら、自分を一番に想ってくれる人を探さなきゃ。二番目でいいなんて、そんなの悲しすぎる。俺なら好きな人の一番になりたい」
「白鳥、私……ごめん。白鳥の優しさに甘えちゃった」
「今回は許すけど、また同じようなことをしたら、もう写真は撮ってあげないから」
彼女が困り果てることを、あえて言ってやった。
「絶対にしない! お願いだから見捨てないで!!」
顔をあげて頼み込む若槻さんの頭をぽんぽんしてから、ゆっくり立ち上がった。それにつられるように、彼女も立ち上がる。
「若槻さん、それじゃあ次になにをしなきゃいけないのか、わかるよね?」
俺が訊ねた瞬間、若槻さんはうっと言葉に詰まり、唇に力を入れたのがわかった。目尻に浮かんでくる涙を両手で素早く拭って、「わかってる」と小さな声で呟く。
「白鳥悪いけど、そこの通りまで送ってくれる?」
そう言ってからタクシーを呼ぶためにスマホを手にして、来た道を歩き出した。足元が少しだけふらついているので、若槻さんの反対の腕を掴み、支えるように横に並んで歩く。
なんとか気持ちの切り替えに成功したことに、安堵のため息をついたのだった。
さめざめと泣いている若槻さんを前にして、思いっきり困り果ててしまった。しかもただ泣いてるだけじゃなく、ひどく泥酔している様子に、どうすりゃいいんだよと心の中でシャウトする。
「若槻さん、お店の迷惑になるから帰りますよ。よいしょっと」
美羽姉に仕事が終わったというLINEをして帰ろうとしたときに、スマホに連絡がきた。
「いつも編集部で使う焼き鳥屋にいるから、迎えに来て!」
声の様子でどうにも心配になり、それで来てみれば、この惨事である。若槻さんを抱きかかえて、なんとかお店を出たのだが。
「若槻さん、タクシー呼びますよ。家はどこですか?」
「帰らない、白鳥の家で飲み直す!」
「俺の家に行っても、お酒はありません。帰りますよ、ご自宅の場所を教えてください」
「絶対にヤダ! 白鳥の家に行く!! 行かなきゃダメなの、飲み直すんだから!」
「わかりました。本当にもう、しょうがないな……」
自宅に行って、お酒がない状況を見たら、水やお茶などを口にして、少しは落ち着いてくれるだろうと考え、千鳥足の若槻さんを引きずりながら帰路に着く。
「悔しい、めちゃくちゃ悔しい!」
「残念でしたね、若槻さん。今回頑張ったのに」
編集部で若槻さんの記事を載せようとした際に、他社の雑誌の先月号でそれと似通った内容が掲載されていることがわかり、若槻さんが手がけたネタが流れてしまった。
やっと巡ってきたチャンスを逃すことになり、次はいつその順番がまわってくるのかわからない。
(写真は記事の内容によって使い回すことができるけど、文章はそれができないもんな。シビアな世界だよ)
「白鳥ごめんね。休みだったところを無理言って撮影させたのに、ボツになっちゃてさ」
「俺は写真を撮るのが好きだから大丈夫だし。気にしないで」
「好きなことを仕事にしてるのに、どうしてこんなにつらいんだろ……」
俺の横で足を引きずるように進ませながら、ぽつりと呟く。
「前カレに言われたんだ。人の不幸を記事にするために仕事をするのは、頭がおかしいって」
「だから前に、ゴシップ記事を世の中に提供して、いろんな人間を貶めてるって言葉が出てきたんだ」
そういう俺も、その片棒を担ぐことを仕事にしてる。だけど美羽姉はなにも言わない。好きなことを仕事にしてる俺に『学くん、頑張って』と応援してくれる。
そう考えると本当に美羽姉は、できた彼女なんだろうな。
「ふん、そんなこと言うヤツ、こっちから振ってやった。おかげで清々したよ」
寂しげなまなざしで、それが嘘なのがすぐにわかった。強がる面持ちとは反対に、震えて告げられたセリフ。今以上に、つらいことを経験したのだろう。
「白鳥さ、髪型変わったよね。いい意味で、前よりも幼く見える」
「それは俺も思う。今までこんなふうに顔を出したことがないから、変な感じでもあるんだけど」
「変な感じなんだ。私は今のほうが好みだよ。白鳥の綺麗な性格が出てる気がするし」
「そうなんだ、ありがと……」
髪の毛をカットしてから美羽姉に逢っていないので、どんな感想を告げられるのか、楽しみで仕方ない。
抱えている若槻さんの足元が不意にグラつき、バランスを崩しかけた。
「おっと!」
体が傾いた瞬間、腰を落として抱きとめようとしたら、若槻さんの唇が俺の頬に触れる。頬といっても、限りなく唇に近いところだった。
「若槻さん、なにやってんだよ。こういうことはむやみやたらにしたら、絶対駄目なことだから」
「彼女、6つ年上なんでしょ。年下の彼女、ほしくない?」
「は?」
「二番目でもいいよ、私。雑に扱われても、文句言わない自信ある」
その言葉に、俺は迷うことなく若槻さんの体から腕を抜いて、その場にしゃがみ込ませた。
「いい加減にしろよ! 若槻さんが自暴自棄になる気持ちもわかるけど、人を巻き込んでまですることじゃない」
「慰めてよ。ひとりきりじゃ、もう立ち直れない……」
俺は黙ったまま、若槻さんの目の前に跪いた。
「白鳥、抱きしめてよ」
「若槻さん、そのワガママを俺にじゃなくて、次の仕事に使わないと」
言いながら、頭を撫でてあげた。
「若槻さんがいないときに、副編集長が言ってたよ。他社が目をつける記事に着目できたということは、若槻の視野が広がってきた証拠だって」
「私には『残念だったわね、運がなかったと思いなさい』しか言わなかった」
「慰めの言葉がなかったのは、次こそはヤってやるぞって若槻さんに頑張る力があることを見越して、あえて言わなかったんだと思う。実際に俺も、若槻さんがここまで荒れてるとは、全然思わなかったし」
俯いた若槻さんの両手に拳が作られて、ぎゅっと握りしめられる。
「みんなが思うほど、私は強くないよ……」
「だったら、自分を一番に想ってくれる人を探さなきゃ。二番目でいいなんて、そんなの悲しすぎる。俺なら好きな人の一番になりたい」
「白鳥、私……ごめん。白鳥の優しさに甘えちゃった」
「今回は許すけど、また同じようなことをしたら、もう写真は撮ってあげないから」
彼女が困り果てることを、あえて言ってやった。
「絶対にしない! お願いだから見捨てないで!!」
顔をあげて頼み込む若槻さんの頭をぽんぽんしてから、ゆっくり立ち上がった。それにつられるように、彼女も立ち上がる。
「若槻さん、それじゃあ次になにをしなきゃいけないのか、わかるよね?」
俺が訊ねた瞬間、若槻さんはうっと言葉に詰まり、唇に力を入れたのがわかった。目尻に浮かんでくる涙を両手で素早く拭って、「わかってる」と小さな声で呟く。
「白鳥悪いけど、そこの通りまで送ってくれる?」
そう言ってからタクシーを呼ぶためにスマホを手にして、来た道を歩き出した。足元が少しだけふらついているので、若槻さんの反対の腕を掴み、支えるように横に並んで歩く。
なんとか気持ちの切り替えに成功したことに、安堵のため息をついたのだった。