純愛カタルシス💞純愛クライシス
☆☆☆
職場から美羽姉に(今から帰る)というLINEをしたあと『学くんチに行くね』という返事があったのを、帰宅後に気づいた。
それから小一時間経つのに、美羽姉は現れない。30分前にLINEをして既読がついたが返事はなく、電話をしてもつながらない。
こうしてスルーされる原因に心当たりのある俺は、美羽姉に逢いに行けなかった。
(さっきの若槻さんとのやり取りを見たせいで、怒ってるのかもしれない。顔を突き合せて謝ればいいのに、嫌われたことを確認したくないとか、どんだけ俺はビビりなんだよ)
それでもなけなしの勇気を振り絞り、急いで美羽姉の住むマンションに向かい、現在は扉の前に佇んで、3分くらい経過している。もちろんピンポンを押したし、LINEで家の前にいることを伝えた。
静まり返る目の前の様子が、言い知れぬ恐怖をあおる。このまま別れることになったりしたら。なんて考えてしまうせいで、喚き出したい気分になった。
深夜じゃないが、夜も遅い時間帯――扉を叩いて、無理やり呼び出すことはできない。LINEをしても俺だけ一方的に送っているだけで、会話にすらならない状況はお手上げだった。
「美羽……」
冷たい扉にそっと触れたら、「もう帰って」というくぐもった声が聞こえてきた。
「美羽姉、話を聞いてくれ!」
「わかってるの、頭では理解してる。学くんは同僚に優しくしていただけだって」
「だったら……」
「キスされた現場を彼女が見て、なにも思わないわけないじゃない!」
やっぱりあの現場を見られていたことに落胆し、扉に触れていた手で拳を作った。その拳を使って扉を殴って盛大に騒ぎ、美羽姉を引きずり出すこともできる。
たぶん美羽姉と付き合う前の俺なら、そんなことをしていただろう。
「美羽ごめん、俺が悪かった」
でも今は、俺の顔を見たくないという美羽姉の気持ちを尊重しなきゃと、冷静な判断ができる自分がいる。
「俺も逆の立場なら、きっと同じような気持ちになると思う。だから逢いたくなるまで、逢わないでいる」
握りしめた拳の力を抜き去り、てのひらで扉に優しく触れる。
「逢わないけどLINEは送る。それだけは許して」
冷たい扉を数回撫でてから、踵を返した。振り返らずに足を前に進ませたら、ガタンっという物音が耳に聞こえた。
重いものが床に落ちたような音――できるのならそれを拾いあげて、抱きしめてあげたいのに、今の俺はそれすらできない。
なにかあるたびに、両想いを続ける難さの壁にぶち当たる。しかも結婚すれば、それが解消されることがないのもわかってる。美羽姉と幼なじみとしての付き合いよりも難しい恋愛という感情に、ふたりして揺さぶられたのだった。
職場から美羽姉に(今から帰る)というLINEをしたあと『学くんチに行くね』という返事があったのを、帰宅後に気づいた。
それから小一時間経つのに、美羽姉は現れない。30分前にLINEをして既読がついたが返事はなく、電話をしてもつながらない。
こうしてスルーされる原因に心当たりのある俺は、美羽姉に逢いに行けなかった。
(さっきの若槻さんとのやり取りを見たせいで、怒ってるのかもしれない。顔を突き合せて謝ればいいのに、嫌われたことを確認したくないとか、どんだけ俺はビビりなんだよ)
それでもなけなしの勇気を振り絞り、急いで美羽姉の住むマンションに向かい、現在は扉の前に佇んで、3分くらい経過している。もちろんピンポンを押したし、LINEで家の前にいることを伝えた。
静まり返る目の前の様子が、言い知れぬ恐怖をあおる。このまま別れることになったりしたら。なんて考えてしまうせいで、喚き出したい気分になった。
深夜じゃないが、夜も遅い時間帯――扉を叩いて、無理やり呼び出すことはできない。LINEをしても俺だけ一方的に送っているだけで、会話にすらならない状況はお手上げだった。
「美羽……」
冷たい扉にそっと触れたら、「もう帰って」というくぐもった声が聞こえてきた。
「美羽姉、話を聞いてくれ!」
「わかってるの、頭では理解してる。学くんは同僚に優しくしていただけだって」
「だったら……」
「キスされた現場を彼女が見て、なにも思わないわけないじゃない!」
やっぱりあの現場を見られていたことに落胆し、扉に触れていた手で拳を作った。その拳を使って扉を殴って盛大に騒ぎ、美羽姉を引きずり出すこともできる。
たぶん美羽姉と付き合う前の俺なら、そんなことをしていただろう。
「美羽ごめん、俺が悪かった」
でも今は、俺の顔を見たくないという美羽姉の気持ちを尊重しなきゃと、冷静な判断ができる自分がいる。
「俺も逆の立場なら、きっと同じような気持ちになると思う。だから逢いたくなるまで、逢わないでいる」
握りしめた拳の力を抜き去り、てのひらで扉に優しく触れる。
「逢わないけどLINEは送る。それだけは許して」
冷たい扉を数回撫でてから、踵を返した。振り返らずに足を前に進ませたら、ガタンっという物音が耳に聞こえた。
重いものが床に落ちたような音――できるのならそれを拾いあげて、抱きしめてあげたいのに、今の俺はそれすらできない。
なにかあるたびに、両想いを続ける難さの壁にぶち当たる。しかも結婚すれば、それが解消されることがないのもわかってる。美羽姉と幼なじみとしての付き合いよりも難しい恋愛という感情に、ふたりして揺さぶられたのだった。