純愛カタルシス💞純愛クライシス
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 学くんから送られてくるLINEの返事を悶々と考えながら寝たせいか、いつもより眠気を感じて起床する。

 昨夜、学くんの住むマンションに向かう途中で、目の前にいるのがわかり、駆け寄ろうとした足が止まった。学くんひとりじゃなかった上に、仲のいい同僚と称された彼女が顔を寄せてキスをするところを目撃してしまい、あまりのショックに、その場を急ぎ足で立ち去るのがやっとだった。

 昨日のショックや、学くんとのやり取りで疲弊した状態からの目覚めからはじまってるせいか、仕事もケアレスミスを連発。あちこちに迷惑をかけては頭を下げるを繰り返し、一日が終わった。

 肩を落としながら駅に向かっていると、「小野寺さん!」と背後から声をかけられた。振り返ると堀田課長が走って、傍にやって来る。

「お疲れ様です。どうしたんですか?」

「小野寺さんこそ、今日はらしくなかったと思ってね。いつも僕の愚痴を聞いてくれてるのに、君の悩みを聞かないなんて、フェアじゃないだろう?」

「大丈夫です。たいしたことないので」

 淡々と答える私に、堀田課長が瞳を細めて笑いかけながら告げる。

「この間のお詫び、今から行かない?」

「ふたりきり、ですか?」

 思いっきり眉をひそめてみせた。こんな顔をした相手を、これ以上誘えないであろう雰囲気と、わざとらしくアクセントをつけて言ったというのに。

「みんなの都合のいい日の調整が、なかなか難航していてね。それにあまり日をあけたくないと思ったんだ。お詫びにならなくなる」

「堀田課長、そんなこと気にしないでください。私はなんとも思っていませんから」

「僕はそれが嫌なんだ。そうだな、一杯だけ付き合って。そしたら、もう小野寺さんに愚痴を言うのもやめる。どうだろう?」

 苦痛に感じていた愚痴聞きから解放される提案は、頑なな私の心をたやすく動かした。

「一杯だけ……?」

「そう、すぐそこにある居酒屋で」

 そこは副編集長さんと行った場所なので、変なバーに連れられるよりはいいかと、仕方なく了承する。

 定時あがりの早い時間帯で居酒屋もあまり客はおらず、店員にお好きな席にどうぞと促された。すかさず堀田課長が「じゃあカウンターで」と言ったのを聞き、それに無理やり割り込む。

「テーブル席でお願いします」

 個室じゃないテーブル席にみずから移動して、椅子に腰かけた。

(一ノ瀬さんから、いろいろ話を聞いておいてよかった。こんなところで役にたつとは!)

 前の私なら堀田課長に言われたまま、カウンター席に並んで座っていただろう。距離の近さを少しでも解消できることに、テーブルの下でガッツポーズを作った。

「小野寺さんはなににする?」

「私は生で……」

「わかった。すみません、生ふたつお願いします!」

 堀田課長が店員とやり取りしてる間に、カバンに入れてるスマホを取り出した。画面には学くんからLINEの通知が表示されていて『美羽姉、話をする気持ちになった?』というメッセージが目に留まる。

「堀田課長、すみません。お手洗いに行ってきます」

 スマホを手にしたまま言って、急いでトイレに向かった。そしてLINEを開き、手早く返信する。

『副編集長さんと飲んだところで、堀田課長と飲んでいるのでお話できません』

 送信マークを押して、スマホの電源を落とした。これで今夜は学くんは現れないだろう。

「家の前で待ち伏せ……。なんてこともしないよね」

 昨夜、学くんがあっさり帰ったことが、思った以上にショックだった。以前の彼なら騒ぐなりして、強引に扉を開けさせる行動をとったハズ。肩透かしを見事に食らった私は、言いようのない寂しさに襲われて、ずっと後悔してしまった。

「本当に、私ってバカだよね」

 ひとこと呟いてテーブル席に戻ると、すでに生ビールが置かれていた。

「小野寺さん、乾杯しよう」

 先にジョッキを手にした堀田課長に促されて、仕方なくそれを持ちあげる。

「たった一杯でも、小野寺さんと一緒に飲めることができて嬉しいよ。乾杯!」

「乾杯……」

 美味しそうに目の前でジョッキの中身をみるみる飲む堀田課長とは裏腹に、私は一口だけビールを飲み込み、テーブルに置いた。

(気のせいかな。副編集長さんと飲んだときよりも、炭酸が少ないような?)
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