冷酷御曹司の激情が溢れ、愛の証を宿す~エリート旦那様との甘くとろける政略結婚~
口を開けた充さんが雑炊をぱくりと頬張った。
彼に掴まれていた手首が解放されたので、素早い動きで引っ込めてしまう。
落ち着け、落ち着け。と、心の中で唱えながらすぐにまたレンゲで雑炊を掬い、ふーふーと冷ましてから彼の顔の前に持っていく。
「味はどうですか」
なにか会話がないと恥ずかしいので、ぱくりと雑炊を口に含んだ充さんに尋ねたのだけれど、「普通だ」と返される。
美味しいと言ってもらえたらうれしいけれど、充さんの性格を考えると言わないだろう。まずいと言われなかっただけでもよかったと思うことにしよう。
「風邪のせいで味があまりしないんだ」
口の中の雑炊を飲み込んでから、充さんがふとそんなことを言った。
「でも、菫の作るものだからきっと美味しいんだろうな。作ってくれてありがとう。あとは自分で食べられる」
充さんはそう言って、私の手から小皿とレンゲを取り、雑炊を自分の口に運ぶ。もぐもぐと食べ進める彼を見ながら、私は思わず固まってしまった。
さっきの充さんの言葉がとても意外だった。
私の作るものなら美味しいのだろうと言われたこともそうだけれど、それ以上に『ありがとう』と言われたことに驚く。そういうことをあまり口にしない人だと思っていたから。