ヤンデレくんは監禁できない!

唐突な終わり

大雨洪水警報をBGMに、車は高速道路を進んでいた。
ワイパーが小さな機械音を出しながら、一定のリズムで雨水を拭う。それを見ていた芽衣里は何度目かの欠伸を噛み殺した。
だが雨粒が容赦なくフロントガラスにたたきつけられて妙に軽快な音が鳴っている。とても寝られたものではない。

(まさかこんなことになるなんて)

芽衣里は昨日の美しい風景を思い出してため息を吐きそうになった。
朝から降り続いた雨は次第にその強さを増し、今日の朝には土砂崩れの可能性があるので避難してくれとラジオでは勧告がだされた。山の天気の変わりやすさを二人して侮っていたわけだが、こうまでタイミングが合うものだろうか。

(災難、トラブル、天災…いつもこうだもんね)

芽衣里はやはり自分はこういう運命なのかと思う。
いつもなんだかんだで自分を心配する凌に申し訳なさはある。それでもこういう災害はどうしようもない。だが凌が言いたいのはそういうことではないと、芽衣里は最初から分かっていた。

(それでもね、凌…あたしは見ないふりなんて出来ないよ)

あの居酒屋での事件がそうだ。気付いても無視すれば襲われて入院するはめになどならなかった。それでも。

(それでもあの女の人が酷い目に遭うのは嫌だったんだ)


『どうして』

『どうしてそれだけで、赤の他人を庇えるんだ?』

芽衣里はそっと凌を見た。整った横顔が瞳に映る。薄めの唇から初めて会った時に浴びせられた言葉を、再び聞いた気がした。
もちろん、凌は車に乗ってから一言も喋ってないのだからありえない。その横顔は恐ろしいまでの無表情で、他人が見れば威圧されているように感じるだろう。

(兄ちゃんも言ってたな…いい奴だけど顔が怖いって)

それを聞いた凌は思わず、といった様子で苦笑していた。俺をいい奴だなんて、そんなことを言ったのは廻さんが初めてだよ、と。

(兄ちゃん…何でも屋の仕事、大丈夫かな)

廻が住んでいる地域も強い雨だとラジオでは言っていた。こう視界が悪いと事故が起きやすいし、芽衣里に負けず劣らずのトラブル引き寄せ体質だ。

(大丈夫とは思うけど、帰ったら連絡してみるか)

空は真っ白な雲に覆われて、目の前は薄く霧がかかったような不安定さ。強いシャワーでも浴びているんじゃないかと錯覚を起こすような雨。その雨に力を与え、カーテンのようにうねらせる風。

ゆっくりとアイドリングを始めた車から芽衣里が見上げると、電光掲示板がこの先で事故が発生したことを示していた。
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