秘書の溺愛 〜 俺の全てを賭けてあなたを守ります 〜
「本当に行くのか?」


室長の呆れ顔をよそに、引継ぎ用の資料が入ったファイルを手渡した。


「行きますよ」

「マジかよ・・まったく」

「室長」

「分かってるよ。何か考えていることがあるんだろう?」

「はい。じゃ、社長を・・桜をよろしくお願いします」


俺は、深々と頭を下げた。


「頼んだぞ、服部」

「はい、必ず」


室長と俺は握手を交わし、俺はフロアを出た。

このすぐ先に、社長室がある。


桜・・。


ガチャッ、と社長室のドアが開く音がした。

目を向けると、桜が藤澤と一緒に出てくる。


「山脇、秘書を変えたんだって?」

「そうよ。室長に兼務してもらうことにしたの」

「じゃあ、挨拶してくか」


藤澤が俺の横を通り抜ける瞬間、会釈した俺にだけ聞こえるように言った。


『なかなか賢いじゃないか』


それがどういう意味を持つのか、真意は分からなかった。

でも、そんなことはどうでも良かった。

俺は、俺の決めたことをやるだけだ。


「服部」


ふたりだけになった廊下で、桜は俺を呼んだ。


「はい」

「何か言い残すことは?」


そう問われて、言葉に詰まった。

目の奥が、グッと熱くなったから。


「ちゃんと・・」

「うん」

「俺がいなくても、ちゃんとメシ食ってください」

「・・分かったわ」

「約束ですよ。抱き心地が悪くなったら困るんで」

「・・何言ってるのよ・・もぅ」


『抱き心地が悪くなったら困る』なんて、俺の勝手な言い分だ。

でも、これ以上冷たく突き放すような言葉は言いたくなかった。


「それじゃ」


俺は桜の視線に見送られて、オフィスを出た。


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