秘書の溺愛 〜 俺の全てを賭けてあなたを守ります 〜
3.別の顔
ごく普通の日に、それもこんな昼の時間帯に実家に帰るのは、いつ以来だろうか。

まともに帰るのだって年末年始の数日くらいで、それ以外は家の誰かに用があった時に、少し顔を出す程度だった。


「あら、直生。珍しいわね、こんな時間に」


リビングで花を飾っていた母親が、俺に気づいて手を止めた。


「あぁ、ただいま」

「何かあった?」

「・・ちょっとね」

「その様子だと、すぐ出掛けるんでしょう? 車、呼ぼうか?」

「1時間後で頼める?」

「いいわよ」


そう言うと、慣れた感じで電話をかけ、車を手配した。


「ちょうどお昼だし、何か食べる? 私もそろそろ食べようかと思ってたところ」

「そう・・じゃあ同じものでいいよ。先に用意してくる」


そう言って、俺はバスルームに向かった。

熱いシャワーを浴びながら、目を閉じる。
未だに、迷いは抜けない。

桜の顔が、浮かんでは消えた。


俺を信じていると、そして、愛していると言ってくれた。

優しくて強くて、なのに可愛いらしいところもある。


・・ベタ惚れって、こういうことを言うんだろうな。


思わず笑みが溢れた。


急がなければ・・。


桜も会社も、絶対に藤澤の好きにはさせない。


俺はクローゼットを開け、普段は袖を通すことのないスリーピースのスーツに着替えた。

カラーシャツに、明るい色のネクタイを締める。

時計を変え、メガネをかけ、髪を整えた。


その格好でリビングに入った俺を見て、母親は言った。


「相変わらずいい男っぷりね、専務」
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