秘書の溺愛 〜 俺の全てを賭けてあなたを守ります 〜
「社長、おはようございます」

「おはよう。毎朝ありがとう」


あの日以来、桜さんが俺を含めた周囲に、涙を見せることは一度も無かった。


俺は社長に就任した桜さんの秘書として、仕事と、一定のプライベートな部分のサポートをしている。

時折、声をかけるのも躊躇うほど、切ない表情をすることはあるものの、そこは俺の采配で、できるだけ無理のないスケジュールに変更してきた。

相変わらず食が細いのは気がかりだが、そこは俺が目を光らせて、なんとか食べてもらっていた。


「社長、今朝はクロワッサンです。コーヒーにします? それとも、カフェオレにしますか?」

「クロワッサン・・。ねぇ服部、あんバターサンドにできる?」

「・・そう仰るかもしれないと思って、両方用意してあります」

「さすがね、ふふ」


俺の目の前でパンを頬張る女性は、紛れもなく我が社の社長なのだが・・。

唇の端に、あんが付いているのに気づかない桜さんは、俺にとって、笑顔の可愛いひとりの女性でもあった。


「社長、唇の端にあんこ付いてますよ」

「え、どこどこ? 拭いてくれる?」


差し出されたナプキンを手にそっと拭き取った時、その唇に触れたい衝動に駆られ、少しの間視線が釘付けになった。


「・・キスされるかと思った」


ふいにそう言われ、心が見透かされた気がした。


「ご冗談を。それとも・・」


『して欲しかったですか?』と口にしそうになり、慌ててキッチンに飛び込んだ。
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