俺様御曹司の契約妻になったら溺愛過剰で身ごもりました
「ん? どうかしたの?」
「かわいいなんて言葉、初めてで――」

 つい本音をこぼしそうになって、慌てて口を閉ざす。

(ダメ、ダメ。友達いないことを自らバラしてどうするのよ)

「いえ、なんでもないです。教えてもらった仕事、午前中で終わらせますね」

 憧れ続けたランチタイムのために、日菜子は真剣な顔でパソコンに向かう。

「なぁ、中野。かわいいって最初に言ったの、俺だったよな」
「そうですね~。僕には聞こえてましたけどね」

 善と中野のそんな会話は、もう日菜子の耳には届いていなかった。

 南が案内してくれた店は、外観も内装もいかにも女性向けといった雰囲気だ。マカロンカラーの壁紙にナチュラルな木目のテーブルと椅子。メニューも野菜多めでヘルシー志向のようだ。

「かわいいでしょ? 味もいいって評判で、ずっと来てみたかったの」

 南はちょっと鼻を高くして、ふたつあるメニューのひとつを日菜子に手渡す。

「たしかに、どれもおいしそうです」

 もらったメニューを眺めながら、日菜子はほんの少し口元を緩めた。食べたい気分だったパスタがあったこともうれしかったけれど、なにより、同僚とランチをするという夢が初日にして叶ったことが日菜子の心を弾ませた。

(幸先いいなぁ。優しい先輩に恵まれてよかった)
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