俺様御曹司の契約妻になったら溺愛過剰で身ごもりました
 期間限定の契約妻じゃないか。そう反論しても彼は一歩も引かない。

「だからこそだよ。多少は夫婦らしい空気感にならないと偽装なのがバレるだろ」

 善は有無を言わさず距離を詰めてくる。

「ほら、夫婦の練習と思って」

 強引に渡されたタイを日菜子は渋々彼の首に巻く。

「では……ん? あれ?」

 高校の制服は結ぶタイプのネクタイだった。だが、自分にするのと誰かにするのでは思っていた以上に勝手が違う。グチャグチャになったそれを見て善はぷっと噴き出す。

「――男に結んであげるのは初めて?」

 彼の声が一段と艶っぽく響いて、心臓がドクンと跳ねる。答える日菜子の声は上擦っていた。

「男女問わず、自分以外の誰かにするのは初めてです」
「それは光栄だな。ほら、教えてやるから」

 指先に彼の手が重なる。尋常ではないほどドキドキして、ネクタイの結び方などちっとも頭に入ってはこなかった。
 なんとか結び終えて顔をあげると、柔らかな笑みがすぐそこにあった。
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