合意的不倫関係のススメ
敬老の日や彼岸の時期も終わり、十月の今は比較的忙しくない。十一月の終わり頃から歳暮が始まると地獄のような忙しさになるから、束の間の休息時期といったところだろうか。
今日は早番シフトで私は十七時半上がり。そろそろ帰ろうかと思っていた所へ、二條さんがひょっこりと顔を出した。
「お疲れ様、三笹さん。今日ファックスした注文書、ちょっと変更してほしいところがあってさ」
彼はタブレットを取り出しながら、変更箇所を私に伝える。
花形である外商部の人達がやってくると、何となく売場は浮き足立つ。それが二條さんであれば尚更。
殆どが女子のこの場所で、独身で見た目も良い彼は格好の的となるわけだ。まぁ、倍率が高過ぎて余程自分に自信のある人でなければアプローチはしないだろうが。
花井さんも最初は二條さんが来る度に話しかけていたけれど、脈がないと悟ったのか早々に見切りをつけたようだ。今は一切、こちらには近寄ってこない。
「三笹さんの包装綺麗だから喜ばれるんだよ」
「普通です」
「そんなことないって」
仕事の話なら致し方ないが、それが終わったのならもう帰りたい。そんな思いが無意識に現れたのか、視線がちらりと腕時計に向いた。
「あっ、三笹さん今日はもう上がり?」
「はい、そうです」
「じゃあ、今日こそ飲みに行かない?もちろん同期のヤツらも誘ってさ」
(同期同期って)
どうしてそこまで強調するんだろう。そんな縛りの為に大して誘いたくない私まで誘わなきゃならないなんて、何だか気の毒にすら感じてくる。
「すみません、今日も予定が」
その時ちらりと視界の端に見知った人物が映り、思わず目を見張る。少し離れた場所から、蒼がこちらに向けて手を振っていた。
「あれ、知り合い?」
私の視線の先を追った二條さんが、声を上げる。
「主人です。これから映画に行く約束をしていて」
「そういえば見たことあるような気がする。あ、じゃあ飲み会は無理か」
「すみません」
「大丈夫。また誘うから」
二條さんはそう言って、なぜか私の肩をぽんと叩く。
「仲良しで羨ましい。楽しんできてね」
「…はい」
立ち去る後ろ姿すら爽やかな彼が見えなくなるまで、私は目で追った。よく分からない人だと、内心首を捻りながら。
今日は早番シフトで私は十七時半上がり。そろそろ帰ろうかと思っていた所へ、二條さんがひょっこりと顔を出した。
「お疲れ様、三笹さん。今日ファックスした注文書、ちょっと変更してほしいところがあってさ」
彼はタブレットを取り出しながら、変更箇所を私に伝える。
花形である外商部の人達がやってくると、何となく売場は浮き足立つ。それが二條さんであれば尚更。
殆どが女子のこの場所で、独身で見た目も良い彼は格好の的となるわけだ。まぁ、倍率が高過ぎて余程自分に自信のある人でなければアプローチはしないだろうが。
花井さんも最初は二條さんが来る度に話しかけていたけれど、脈がないと悟ったのか早々に見切りをつけたようだ。今は一切、こちらには近寄ってこない。
「三笹さんの包装綺麗だから喜ばれるんだよ」
「普通です」
「そんなことないって」
仕事の話なら致し方ないが、それが終わったのならもう帰りたい。そんな思いが無意識に現れたのか、視線がちらりと腕時計に向いた。
「あっ、三笹さん今日はもう上がり?」
「はい、そうです」
「じゃあ、今日こそ飲みに行かない?もちろん同期のヤツらも誘ってさ」
(同期同期って)
どうしてそこまで強調するんだろう。そんな縛りの為に大して誘いたくない私まで誘わなきゃならないなんて、何だか気の毒にすら感じてくる。
「すみません、今日も予定が」
その時ちらりと視界の端に見知った人物が映り、思わず目を見張る。少し離れた場所から、蒼がこちらに向けて手を振っていた。
「あれ、知り合い?」
私の視線の先を追った二條さんが、声を上げる。
「主人です。これから映画に行く約束をしていて」
「そういえば見たことあるような気がする。あ、じゃあ飲み会は無理か」
「すみません」
「大丈夫。また誘うから」
二條さんはそう言って、なぜか私の肩をぽんと叩く。
「仲良しで羨ましい。楽しんできてね」
「…はい」
立ち去る後ろ姿すら爽やかな彼が見えなくなるまで、私は目で追った。よく分からない人だと、内心首を捻りながら。