合意的不倫関係のススメ
二條さんの所為で鬱々とした昼休みを過ごした。それでも平常心で黙々と業務をこなしていた私の気分を、更に沈ませる出来事が起こった。
「三笹さん。急なことなんだけど、外商部の部長がこの間のお礼に貴女を飲みに連れて行きたいって」
「…」
主任からそう声を掛けられて、舌打ちしたくなるのを必死に堪える。お礼なんて必要ないし、第一上司との食事なんて気を遣うだけで、あまり有り難くもない。
「私も昔行ったことがあるけど、あの部長断るとしつこいから…」
「…はい」
確かに今日、一人の夜を過ごしたくないと思っていたけれど。それは決してこういうことではなかったのに。
(面倒くさい)
それに先日のあの件は二條さんのお客様。となれば彼も参加するだろうことは、容易に想像がついた。
「分かりました。後で社内携帯に連絡します」
「仕事終わりに大変だと思うけど、美味しいものご馳走になってきて」
「ありがとうございます」
主任の穏やかな笑顔に、ささくれだった心が少し和らぐ。断れる類のものとそうでない類のものが存在することは、飲み会が苦手な私でも知っている。
私に配慮してのことだろうが、あの部長の性分からして何かにかこつけて飲み会を開きたいという思惑も、充分にありそうだ。
もう考えても仕方がないので、時間外労働だと諦めることにしたのだった。
「乾杯ーっ!」
外商部の部長だけあって、とても仕事が出来る人だと思う。真面目というより砕けたタイプで、人身掌握が得意そうといった感じ。流石営業だけあって、話題の引き出しが豊富で笑顔が可愛らしかった。私よりもずっと歳上の男性に、可愛らしいというのもどうかとは思うけれど。
「いやぁ、三笹さんにはいつかお礼をしたいと思ってたんだよ」
「ありがとうございます、恐縮です」
「固い!仕事じゃないんだから、もっと気楽に行こうよ三笹さん!」
私にとっては、これも充分仕事だ。普段は食べられないような高級懐石が味わえるのは嬉しいけど、やはり気疲れしてしまう。
それに…
(やっぱり、いるし)
部長の隣に座らされている私とは違い、彼は斜め向かいで他の外商部の女性と楽しそうに話していた。こちらを見もしないが、それならそれの方が私にとっても好都合だ。
昼休みの《《あれ》》から、どんな顔をして会えばいいのか、少し気を揉んでいたから。
「三笹さんは、高卒で入社だっけ?」
「はい。今年で勤続七年になります」
「確か結婚も早かったよね?まだ子供はいないんだったっけ?」
「はい、いません」
どうやらこの部長は、酒が入ると人のプライベートにずかずかと入り込んでくるらしい。しかしこのくらいのことでセクハラだモラハラだと、騒ぎ立てる気もなかった。
「旦那さんとは、ほら…ちゃんとあっちの生活ある?今多いんでしょ?セックスレスってやつ」
「さぁ…どうでしょう」
(気持ち悪い)
目の前の豪華な料理が、一瞬で霞んだ。
「三笹さん綺麗だしスタイルもいいけど、ぱっと華やかな感じがちょっと足りないかな?外商部の女性陣は着飾るの上手い子多いから、教えてもらえばいいよ」
「はぁ、そうですね」
「ウチもさぁ、昔は毎晩…だったけど今じゃめっきりだよ。もう何十年も一緒にいると流石に抱く気になれないのは、仕方ないことだよなぁ。あ、だからって俺は浮気とかしないけどね?」
心底どうでもいい。
ちらりと何度か他に視線を向けてみても、皆慣れっこという感じで気に留めていない。というよりも、私という生贄がいてラッキーという雰囲気さえあった。
(これなら一人の方がマシよ)
適当に相槌を打ちながら、ひたすら時が過ぎるのを待つだけだった。
「三笹さん。急なことなんだけど、外商部の部長がこの間のお礼に貴女を飲みに連れて行きたいって」
「…」
主任からそう声を掛けられて、舌打ちしたくなるのを必死に堪える。お礼なんて必要ないし、第一上司との食事なんて気を遣うだけで、あまり有り難くもない。
「私も昔行ったことがあるけど、あの部長断るとしつこいから…」
「…はい」
確かに今日、一人の夜を過ごしたくないと思っていたけれど。それは決してこういうことではなかったのに。
(面倒くさい)
それに先日のあの件は二條さんのお客様。となれば彼も参加するだろうことは、容易に想像がついた。
「分かりました。後で社内携帯に連絡します」
「仕事終わりに大変だと思うけど、美味しいものご馳走になってきて」
「ありがとうございます」
主任の穏やかな笑顔に、ささくれだった心が少し和らぐ。断れる類のものとそうでない類のものが存在することは、飲み会が苦手な私でも知っている。
私に配慮してのことだろうが、あの部長の性分からして何かにかこつけて飲み会を開きたいという思惑も、充分にありそうだ。
もう考えても仕方がないので、時間外労働だと諦めることにしたのだった。
「乾杯ーっ!」
外商部の部長だけあって、とても仕事が出来る人だと思う。真面目というより砕けたタイプで、人身掌握が得意そうといった感じ。流石営業だけあって、話題の引き出しが豊富で笑顔が可愛らしかった。私よりもずっと歳上の男性に、可愛らしいというのもどうかとは思うけれど。
「いやぁ、三笹さんにはいつかお礼をしたいと思ってたんだよ」
「ありがとうございます、恐縮です」
「固い!仕事じゃないんだから、もっと気楽に行こうよ三笹さん!」
私にとっては、これも充分仕事だ。普段は食べられないような高級懐石が味わえるのは嬉しいけど、やはり気疲れしてしまう。
それに…
(やっぱり、いるし)
部長の隣に座らされている私とは違い、彼は斜め向かいで他の外商部の女性と楽しそうに話していた。こちらを見もしないが、それならそれの方が私にとっても好都合だ。
昼休みの《《あれ》》から、どんな顔をして会えばいいのか、少し気を揉んでいたから。
「三笹さんは、高卒で入社だっけ?」
「はい。今年で勤続七年になります」
「確か結婚も早かったよね?まだ子供はいないんだったっけ?」
「はい、いません」
どうやらこの部長は、酒が入ると人のプライベートにずかずかと入り込んでくるらしい。しかしこのくらいのことでセクハラだモラハラだと、騒ぎ立てる気もなかった。
「旦那さんとは、ほら…ちゃんとあっちの生活ある?今多いんでしょ?セックスレスってやつ」
「さぁ…どうでしょう」
(気持ち悪い)
目の前の豪華な料理が、一瞬で霞んだ。
「三笹さん綺麗だしスタイルもいいけど、ぱっと華やかな感じがちょっと足りないかな?外商部の女性陣は着飾るの上手い子多いから、教えてもらえばいいよ」
「はぁ、そうですね」
「ウチもさぁ、昔は毎晩…だったけど今じゃめっきりだよ。もう何十年も一緒にいると流石に抱く気になれないのは、仕方ないことだよなぁ。あ、だからって俺は浮気とかしないけどね?」
心底どうでもいい。
ちらりと何度か他に視線を向けてみても、皆慣れっこという感じで気に留めていない。というよりも、私という生贄がいてラッキーという雰囲気さえあった。
(これなら一人の方がマシよ)
適当に相槌を打ちながら、ひたすら時が過ぎるのを待つだけだった。