合意的不倫関係のススメ
「んん……」
まだ頭がぼやけている。芯がずきずきと痛むが、吐きそうな程ではない。様々な種類を混ぜこぜに飲んだ割には、そこまで気分は悪くなかった。
(あれ…家だ…)
ソファーに横たわり、ご丁寧にブランケットまで掛かっている。自分がここまでどのようにして帰ってきたのか、全く覚えがない。まさか無銭飲食などしていないだろうかと、一瞬肝が冷えた。
「あ、目が覚めた?気分どう?」
「蒼…」
「まだ少し顔色悪いね、大丈夫?」
目の前の蒼は、気遣うように顔を覗き込みながら私の額に手を当てる。その格好はもうすっかり部屋着で、ふと時計に目をやるともう午前零時を回っていた。
「ねぇ蒼、私どうやって帰ってきたか知ってる?」
「あれ。何も覚えてない?まぁ確かに、茜にしては珍しくかなり酔ってたもんね」
「…まさか、蒼が店から私を連れて帰ったの?」
私の問いかけに彼は優しげに頷く。まるで驚いている私の方がおかしいような雰囲気だった。
「でも蒼は今日式典だったでしょう?」
「茜が連絡くれたんだよ」
「え…っ、私が?」
全く記憶がない。蒼のことばかり考えているうち、いつのまにか電話をかけてしまったのだろうか。
「それで途中で抜けてきたってこと?ごめん、どうしよう私…」
「謝らなくていいよ。茜に何かあった方が嫌だしさ」
本当に気にしていないような表情で、彼は私の頭を優しく撫でる。思わず抱きつき首元に擦り寄れば、普段使っているシャンプーのいい香りが鼻をくすぐった。
「ごめんね…蒼」
「たかがこのくらいのことで謝りすぎだって」
ぽんぽんと背中を叩きながら、蒼は笑う。まだ酔いが頭を支配しているのか、その温かさに泣いてしまいそうだった。
「ごめん、ごめんね」
「茜」
「私、私…っ」
結局、自分のことばかりだ。本当の意味では、私は彼を救えない。
他の女性と比べて、秀でた所などなにもないから。いつか母親のように捨てられるのではないかと思うと、怖くて堪らない。その恐怖から逃れたい一心で、私はあんなことを…
(今更後悔したって、遅いのに)
嫉妬と罪悪感とが混ざり合い、支配していく。大丈夫、大丈夫だと自分を誤魔化してきたけれど、もう限界なのかもしれないと思う。
このまま何もしないまま、もしも彼が花井さんと…いや彼女でなくとも他の誰かを抱くかもしれないと、毎日が不安で押しつぶされてしまいそうだった。
だけど、言えない。束縛すればきっと、蒼は私から離れていく。
彼は紛れもなく、私を愛している。
自分の母親とは正反対の、従順で優しい私を。
「茜」
後何度そうやって、名前を呼んでくれる?
「愛してる」
どこをどんな風に、どれくらい愛してる?
「俺を信じて」
そんなこと無理だ。だって、愛されるには対価が必要だから。傷を負わなければ、欲しいものはもらえない。
(もう、ダメかもしれない)
この日私は初めて、自分の心がとっくに限界を迎えていたことを知った。
いつだって、彼の腕の中は温かいのに。
手放したくなんてないのに。
涙はいつまでも、溢れて止まらなかった。
まだ頭がぼやけている。芯がずきずきと痛むが、吐きそうな程ではない。様々な種類を混ぜこぜに飲んだ割には、そこまで気分は悪くなかった。
(あれ…家だ…)
ソファーに横たわり、ご丁寧にブランケットまで掛かっている。自分がここまでどのようにして帰ってきたのか、全く覚えがない。まさか無銭飲食などしていないだろうかと、一瞬肝が冷えた。
「あ、目が覚めた?気分どう?」
「蒼…」
「まだ少し顔色悪いね、大丈夫?」
目の前の蒼は、気遣うように顔を覗き込みながら私の額に手を当てる。その格好はもうすっかり部屋着で、ふと時計に目をやるともう午前零時を回っていた。
「ねぇ蒼、私どうやって帰ってきたか知ってる?」
「あれ。何も覚えてない?まぁ確かに、茜にしては珍しくかなり酔ってたもんね」
「…まさか、蒼が店から私を連れて帰ったの?」
私の問いかけに彼は優しげに頷く。まるで驚いている私の方がおかしいような雰囲気だった。
「でも蒼は今日式典だったでしょう?」
「茜が連絡くれたんだよ」
「え…っ、私が?」
全く記憶がない。蒼のことばかり考えているうち、いつのまにか電話をかけてしまったのだろうか。
「それで途中で抜けてきたってこと?ごめん、どうしよう私…」
「謝らなくていいよ。茜に何かあった方が嫌だしさ」
本当に気にしていないような表情で、彼は私の頭を優しく撫でる。思わず抱きつき首元に擦り寄れば、普段使っているシャンプーのいい香りが鼻をくすぐった。
「ごめんね…蒼」
「たかがこのくらいのことで謝りすぎだって」
ぽんぽんと背中を叩きながら、蒼は笑う。まだ酔いが頭を支配しているのか、その温かさに泣いてしまいそうだった。
「ごめん、ごめんね」
「茜」
「私、私…っ」
結局、自分のことばかりだ。本当の意味では、私は彼を救えない。
他の女性と比べて、秀でた所などなにもないから。いつか母親のように捨てられるのではないかと思うと、怖くて堪らない。その恐怖から逃れたい一心で、私はあんなことを…
(今更後悔したって、遅いのに)
嫉妬と罪悪感とが混ざり合い、支配していく。大丈夫、大丈夫だと自分を誤魔化してきたけれど、もう限界なのかもしれないと思う。
このまま何もしないまま、もしも彼が花井さんと…いや彼女でなくとも他の誰かを抱くかもしれないと、毎日が不安で押しつぶされてしまいそうだった。
だけど、言えない。束縛すればきっと、蒼は私から離れていく。
彼は紛れもなく、私を愛している。
自分の母親とは正反対の、従順で優しい私を。
「茜」
後何度そうやって、名前を呼んでくれる?
「愛してる」
どこをどんな風に、どれくらい愛してる?
「俺を信じて」
そんなこと無理だ。だって、愛されるには対価が必要だから。傷を負わなければ、欲しいものはもらえない。
(もう、ダメかもしれない)
この日私は初めて、自分の心がとっくに限界を迎えていたことを知った。
いつだって、彼の腕の中は温かいのに。
手放したくなんてないのに。
涙はいつまでも、溢れて止まらなかった。