魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
「っ、?」


勢いに任せたように口走る彼女を、俺は人差し指を立てて制した。
そうすると、ターミナル内のアナウンス放送が、レストランの中でも聞き拾える。


『日本エア航空からお知らせいたします』


耳を澄ます俺につられたのか、椎名も目線を宙に上げた。


『日本エア航空東京羽田行き121便は、ただ今お客様を機内へご案内中です。121便をご利用のお客様は……』

「さっきから気になってたんだけど」


俺はアナウンスの途中で首を捻った。
彼女の頭のてっぺんから視線を下ろしていく。
椎名は怯み、身を竦めた。


「お前、いくらなんでも荷物少なくないか? トンボ帰りのつもりだった?」


トートバッグに落ちる俺の視線を追って、目を動かす。


「だって、仕事帰りに来たから……」

「帰り何便? 時間大丈夫?」

「……あっ!!」


俺が訊ねると、ハッとした顔で左手首の腕時計を見た。
俺も自分の腕時計で確認したが、針は午後八時半を指している。
彼女の反応で事態を読み、呆れて溜め息をついた。


「出よう。間に合うか?」


促しながら腰を浮かせた俺をそっちのけで、椎名はバッグからスマホを取り出し、慌てて操作し始める。
俺は無意識に眉をひそめ……。


「おい、まさか」
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