魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
『……どこの俺よ?とかツッコまないの?』


からかうようでありながら、どこか遠慮がちな声に、私はぎこちなく苦笑した。


「神凪さんの番号は登録されてますから」

『……そ』


神凪さんは、短い相槌を打って黙り込んだ。
自分からかけてきておいて、話題に入るのを躊躇う空気が感じられる。
微妙な沈黙が続き、私はスマホを耳に当てたまま、窓の外に目を遣った。


遠くに、787の機体が見える。
神凪さんが乗務するパリ便だ。
つい先ほどまで、私たちのチームが整備に当たっていて、これからスポットインする。
出発時刻は、午前八時半。
ディレイはなく、オンタイムで離陸すると聞いている。


「あの、神凪さん。ショーアップの時間、大丈夫ですか?」


ショーアップとは、フライト前の集合時間のこと。
出勤時間を気にした私に、神凪さんが『ああ』と答える。


『七時。その前にハンガーに行ったんだけど。……お前、もう上がっちゃった?』

「え? は、はい。夜勤は、なにもなければ午前六時には上がれるので……」

『そっか。もっと早く来るべきだった』


残念そうな溜め息に、胸がきゅんと疼く。
私は左手首の腕時計に目を落とした。
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