魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
***


一時間残業して私が午後十一時に仕事を終えた時、昼間の風雨は治まり、大荒れだった空は凪いでいた。
滑走路に面した扉から夜空を仰ぐと、一つ二つと星光も見える。


「やれやれ……だな」


隣に並んだ佐伯さんが左右に首を傾け、コキコキと骨を鳴らした。


「さすがにハードでしたね……」


私も両腕を前に突き出し、凝り固まった肩の筋肉を解した。


「お前、明日休み?」

「はい。佐伯さんもですよね?」


同じ質問を返すと、佐伯さんが「ああ」と頷いて応えた。


「お互い、しっかり身体休めてこような」

「はい。じゃ、お先に失礼します」


最後に会釈で挨拶して、私はハンガーを後にした。
隣接する社屋の無機質で古びた通路を通り、女子更衣室に戻るまでの間に社食がある。
整備士は二十四時間交替勤務なので、深夜のこの時間でも、夜勤者のために営業している。
私はメニューが並んだショーケースを、何気なく覗き込み……。


「えっ」


そこに映った自分の顔に仰天して、飛び退いた。
確かに、今日の業務はいつもよりハードだったし、加えて激しい風雨に晒された。
そのせいで、頬は砂埃で汚れ、乾いてこびりついている。
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