魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
主任や佐伯さん、他の整備士たちの前では、顔の汚れなんか気にしたこともない。
ついさっきまで整備に熱中していて、意識も働かなかったけれど――。


「やだっ。私、こんな顔で神凪さんの前に出たの?」


自分の汚れ具合を自覚した途端、激しい羞恥に駆られる。
カーッと頬を火照らせ、汚れを落とそうと、手の平でゴシゴシ擦った。


今日はゆっくり湯船に浸かりたくて、このまま帰ろうと思ってたけど、一刻も早くシャワーを浴びなければ。
女子更衣室に急ごうと、私はくるっと踵を返し……。


「芽唯」


名前を呼ばれて、条件反射で足を止めた。


「え?」


声がした方向を振り返る。
通路の先、セキュリティチェックゲートの向こう側に、壁に凭れかかっている人を見つけた。
白いシャツにカーキ色のスラックス、上からトレンチコートを羽織ったカジュアルな服装の男性が、私の視線を受け、勢いをつけて壁から背を起こす。
ゲートを通過して、こちらに歩いてくるその人は――。


「あ……」


徐々に近付いてくる神凪さんから目を離せず、私はその場に立ち竦んだ。


「お疲れ」


目の前で両足を揃えて立ち止まった彼を、おずおずと見上げる。
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