魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
早番の終業時間まで間もない、午後一時半。


「ふう……」


降着装置の点検が終わり、私は声に出して息を吐いた。
ヘルメットを外し、額にうっすらと滲んだ汗を手の甲で拭って被り直してから、改めて頭上を仰いだ。


稀に見る荒天の中、愁生さんがこのJA831Kを無事ランディングさせたのは三日前のこと。
彼自身『乱暴』と言った通り、やや強めのランディングだったけど、私がスポットで目視した限り、タイヤにも脚柱にも傷みはなかった。


それでも、内部が損傷している可能性は否定できない。
一旦ハンガーに引き取り、メインギア部分を分解して、着陸時の衝撃を大きく受ける降着装置を入念に整備していた。
結果、異状なし。
アクチュエーターやシステムの作動状況も良好で、作動オイルを装填したら空に送り出せる。


私は機体の右側に出て、後ろ歩きで正面に回った。
腰に手を当て、気象レーダーが装備されているノーズ部分と睨めっこする。
ふふっと笑みを零した私の負け。


「早く飛ばしてもらいたいね」

「おーい椎名! そっちの進捗どうだ?」


無意識に呟いた時、尾翼付近から佐伯さんの声が聞こえてきた。


「あ、はーい。完了です!」


背筋を伸ばして答えると、「よしっ」と声だけ返ってきた。
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