魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
「よかったよかった。831K、復帰フライト確定したそうだから」


弾む言葉と共に、鼻の頭を油で汚した佐伯さんがひょこっと顔を出す。


「そうなんですか? よかった。いつです?」

「明日の新千歳便」

「え」


私は思わず目を丸くした。


「それって……」

「そう。副操縦士は神凪」


佐伯さんがこちらに歩いてきて、訳知り顔でニヤリと笑う。


「ああ。俺がわざわざ言わなくても、お前は神凪のフライトくらい、一ヵ月先まで把握してるか」

「! そ、そんなに知らないですよ。この間のパリ便の後、一本目が明日の新千歳ってだけで……」


焦って弁解に回ったものの、余計ニヤニヤされて、カマをかけられたと気付く。
カーッと顔を茹だらせる私に、佐伯さんが「ごめんごめん」と肩を揺らした。


「俺、神凪とお前のこと、自分のことみたいに嬉しくて」

「それは最初からじゃないですか」


目尻に涙まで浮かべて言われ、私は気恥ずかしくなって、ややつっけんどんにツッコんだ。
佐伯さんは気にした様子もなく、うんうんと相槌を打つ。


「アイツには、俺以上の幸せ掴んでほしかったからさ」


トーンを落とした低い声に、なにか深いニュアンスを感じた。
< 201 / 222 >

この作品をシェア

pagetop