魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
意味もなくドキドキと加速する心拍を気にして、私はなんとなく足元に目を伏せた。
愁生さんは気に留めることなく、私たちの方に歩いてくると。


「でも、それは男のセリフだ」


両足を揃えて立ち止まり、私の額をコツンと小突く。


「!」


私は反射的に両手で額を押さえた。
『私が幸せにする』だなんて、深読みしたらかなり際どい言い方だと気付き、猛烈な羞恥心に襲われる。
カーッと頬を火照らせる私を他所に、


「ハンガーまで来てカッコつけるなよ」


佐伯さんが眉をハの字にして苦笑した。


「別にカッコつけてないよ。俺にはそれが常識だけど、お前はそう思わない?」


平然と言い返され、ひくっと頬を引き攣らせる。


「はいはい。お前はそのままでイイ男だよ」


ひょいと肩を竦めてボヤいた。
愁生さんは怪訝そうに眉根を寄せてから、私たちの傍に鎮座している重装な飛行機を眩しそうに見上げた。
主翼の下の機体番号が目に留まったのか、「あ」と声をあげる。


「この間のパリ便か。大丈夫だったか?」

「大丈夫ですよ」


私は一歩前に出て、表情を曇らせた彼に返事をした。


「ボディに傷はないし、タイヤも目立った磨耗は見られませんでした。脚柱も歪みはないし、作動オイルを装填したら、いつでも空に送り出せます」

「そうか、よかった」
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