魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
「なんで」

「……思い当たることがないならいいです」


煙に巻いてうそぶく私に、不審げに首を傾げる。
どういう意味か説明を待つ気配を感じるけど、私は831Kに気を取られるフリをして誤魔化した。
すると、愁生さんもつられたように機体を仰ぐ。


「またよろしくな」


強気でありながら慈悲深く、愛おしむような優しい瞳。
私に向けられたわけじゃないのに、胸がきゅんとした。
頬が熱くて、落ち着かない気分でくるりと方向転換する。


「あ、芽唯」

「お、オイル装填の準備しなきゃいけないので」


取ってつけた言い訳をして、整備作業に戻ろうとして。


「お前、もう少しで上がりだろ?」


背中に声をかけられ、ピタリと足を止めた。


「はい」

「俺も定時で上がれるから。家で待ってて」

「へ……きゃっ!?」


愁生さんが言ってる途中でなにか放ってきて、とっさに両手でキャッチした。
緩い放物線を描き、太陽光を浴びて一瞬キラリと光ったもの。
それは――。


「……鍵?」


手の平に目を落とし、無意識に呟く。


「俺の家の。手料理振る舞ってよ」


ニヤリと笑って補足され、ついポカンとしてしまった。


「え? な、なんで」

「なんでって……別にいいだろ。夕飯一人分余計に作るくらい」
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