魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
いきなりすぎる要望にきょとんとする私に、愁生さんがムッと口を曲げる。


「それとも、料理の腕前は壊滅的とか?」

「人並みです。プロにはほど遠いけど」

「別に、プロの腕前なんか求めてない。カレーでも、無理なら目玉焼きでもいいから」


私の返答に苦笑して、ポリッと頬を掻いた。
そして。


「それ、返さなくていいから」

「っ、え?」

「あー……だから、合鍵ってヤツ。俺がいてもいなくても、いつでも来ていい。って言うか、来い」


一方的に言うだけ言って、やけにそそくさと踵を返した。
らしくなく肩を縮めてハンガーから出ていく彼の背中を、私は呆気に取られて見送って――。


「目玉焼きって、バカにしすぎじゃない?」


憤慨して独り言ちたものの、手の平の鍵を見ると胸がきゅんと疼く。


「……っ」


ときめいて、ドキドキと鼓動が弾むのを自覚して、慌てて胸に手を置いた。
愁生さんの家の合鍵に、体温が浸透して同化するほど、ぎゅうっと握りしめる。


「返さなくていい合鍵……絶対、誰にも渡したことないよね」


疑念をよぎらせるまでもなく、絶対私だけという優越感が湧いてくるから不思議だ。
私は無自覚に火照る頬に手を当てて冷ましてから、作業着の胸ポケットに彼の部屋の鍵を大事に忍ばせた。
< 207 / 222 >

この作品をシェア

pagetop