魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
キッチンに戻り、鍋つかみを手に、土鍋の蓋を取った。
一度しっかり火を通した鍋から、胡麻の香ばしい匂いがふわっと立ち上がる。


「土鍋がなかったら八宝菜にするつもりだったけど、あってよかったです。あ、ちょっとキッチン探索しちゃいました。すみません」


私の後からキッチンに入ってきた彼を振り返って、ひょいと肩を竦める。


「いいけど」


愁生さんが私の後ろに回って、土鍋を見下ろした。


「土鍋なんて残ってたのか。いつ以来だろ」


わりと真顔で顎を摩って、記憶を手繰っている。


「鍋パーティーとかで使ったんですか?」


一人用ではなく、三、四人で使える大きな物だ。
私が肩越しに訊ねると、愁生さんは相槌で応えてくれた。


「学生の頃に。その後は記憶にない」

「えっ。そんな前?」

「社会人になった後は研修、試験、訓練三昧で、大勢で集まる暇もなかったし、多分」


どうやら、この土鍋はその時のために買って、出番は一回きりだったと窺える。


「ふふ。よかった、残ってて」

「その時は普通の寄せ鍋だった気がするけど、最近ほんといろんな種類があるな」


まるで、鍋料理を初めて知った外国人みたいな反応。
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