魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
どうにか気を取り直した様子で、明るく声が転調して、私はホッと胸を撫で下ろした。


「はい。誘導路までご一緒しますね」


整備士だからといって、みんなでゾロゾロ行ける場所ではない。
いつも私はスポットからだけど、今日はまさに飛び立つ直前までそばで見守れる興奮で、紅潮した頬の筋肉が緩む。


『ん』


コックピットの窓の向こうで、愁生さんが首を縦に振ったのが見えた。
続いて、『ふっ』とくぐもった笑い声が耳に届く。


「? 神凪さん?」

『いや……見てるかもと思うと、カッコつけたくなるのもわかるわ』

「は?」


言われた意味がわからず聞き返した時、『いてっ』と小さな悲鳴がした。


「神凪さん?」

『コーパイが色気づくなと言っただろ。十年早い』


首を傾げて呼びかけると、彼ではない別の声が挟まれた。
地の底を這うような低い声には聞き覚えがある。


「く、久遠さ……?」


無意識にその名を口にしかけて、私は慌てて両手で口を押さえた。


『十年は酷い。そんなにかかりませんよ』


コックピットの中で愁生さんは、日本エア航空きっての鬼機長に悠々と反論している。


『俺、久遠さんの最年少記録更新狙っていきますので』
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