魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
「管制にプッシュバックリクエストします」


俺は素知らぬ顔で言って、航空無線の周波数を合わせた。


「Tokyo Ground, JK 102, Request Pushback, Spot 60」


すぐに管制から許可が下りた。
機首を向ける方向、出走滑走路の指示は、地上の整備士にもカンパニーラジオを通して届いている。


『JK102、プッシュバック開始します』


早速、芽唯のチームの主任が応じた。
よく聞く声だから、すぐに誰だかわかる。
ほどなくして、コックピットの窓から見える景色が動き始めた。
芽唯もついて来ているだろうか。
俺の位置からは、その姿を確認できない。


「Right engine start」

「Start right」


プッシュバックの間に、俺は久遠さんの指示に従い、右エンジンのスイッチを操作した。


『JK102、まもなく誘導路です』

「了解。ありがとうございます」


整備主任の報告に、マイクの位置を直して応答した。
次は誘導路走行の許可を得るために、再び管制と交信する。


『行ってらっしゃい。よきフライトを』


主任が挨拶をしてくれた。


「ありがとう。行ってきます」


俺は返事をしながら、副操縦士席側の窓から外に目を遣った。
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