魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
佐伯さんはちょっと不思議そうに首を捻ったものの、私に手を振ってくれた。
私たちを追い越し、マネージメントセンターの正面玄関に進んでいく。
作業着の広い背を見送って、私はドッと降りてきた安堵感に胸を撫で下ろした。
ところが。


「ああ、そうだ。佐伯」


神凪さんがニヤリと笑って、一歩前に出た。


「え?」

「話しておきたいことがある」


立ち止まって振り返る佐伯さんに、なにを言うつもりか――。
安堵したのも束の間、警戒心を呼び起こすのが遅れた。


「ちょっ、神凪さ……」


それでもなんとか声を発し、神凪さんが佐伯さんに喋ろうとするのを阻もうとした私は、


「俺、椎名と付き合ってるんだ」


凛と張った低い声に遮られ、自分の耳を疑った。
鼓膜が捉えたのが、私が予想していた言葉と違ったからだろうか。
理解が追いつかず、呆気に取られてしまった。


「……え?」


佐伯さんが、たっぷり一拍分間を置いて聞き返した。
目を瞠ってポカンとする彼に、神凪さんが優雅に微笑む。


「お前と今野の時も報告もらったからさ。こっちも一応」

「え。ああ、いや、ご丁寧にどうも……」


佐伯さんは、驚きと動揺で感情が忙しい様子で目を泳がせ、ポリッとこめかみを掻いた。
< 49 / 222 >

この作品をシェア

pagetop