魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
「椎名。休憩上がったら、先に機体チェック始めてて!」


そんな指示を最後に、タッタッと軽快な足音が遠ざかっていった。
神凪さんが、ふうと息をつき……。


「大事にしろ、か。罪な男だな」

「……!」


私は、ボヤくように独り言ちる彼の背中をドンと押した。


「っ、なんだよ」


神凪さんは一歩前につんのめって、私を振り返った。


「なんで。なんで付き合ってるなんて嘘、佐伯さんにっ……!!」


私が声を嗄らして叫ぶと、ムッと唇を結ぶ。
わざわざ足を引いて回れ右して、私と真正面から向かい合い……。


「十一時に、ここな」


私の頭をポンと叩いた。


「なっ……」

「俺明日フライトないから、交際開始記念でもしよう。大事な先輩に祝われたんだから、一日で振るなよ」


煙に巻くような言い方をして、スッと踵を返した。


「ちょっ……!」


しっかりと帽子を被るのを見ては、私も踏み止まるしかない。
飛行機をオンタイムで離陸させる――。
空港で働く誰もが、その鉄則を遵守するために従事している。
悔しいけど、操縦桿を握るパイロットに、これ以上時間を割かせるわけにいかない。
神凪さんは顔の高さに上げた手をヒラヒラさせて、ビルの中に消えていった。
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