魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
ボヤくような呟きを聞いて、私は慌てて目元を手で押さえた。


「泣いてません」

「いや、バレバレだし」

「た、たとえ泣いてるとしても、別にあなたのせいじゃありません」

「そうだとしても、今この場を佐伯に見られたら、ヤツもまさか自分のせいとは思わない。俺にどう申し開きをしろと?」


短い溜め息にドキッとして、私はそっと彼を見遣った。
神凪さんは、テーブルにまっすぐ向き直っていた。
近付いてきたウェイターから二杯目のグラスを受け取ると、すぐに口に運ぶ。


すっきりと細い顎が仰け反り、男らしく上下する喉仏から鎖骨に至るまでの稜線が美しい。
悔しいけどついつい見入ってしまい、グラスをカウンターに置く音で我に返る。
神凪さんはそそくさとそっぽを向いた私に、訝しそうに首を傾げたものの。


「椎名」


正面の窓を見据えて、やや声のトーンを落とした。
改まった空気を感じて、私は小さく洟を啜ってから、彼の横顔に視線だけ動かした。


「佐伯は、整備士としての信念と感情に矛盾だらけの男だったが、それを取っ払えたのは、CAの彼女のおかげだ」

「っ……」


不覚にも、心臓がドクッと沸いた。
グラスを支える手が震えてしまったのを、神凪さんは見逃さない。
いきなり私の手を掴み――。


「っ、ちょっ……!」

「佐伯は、可愛い後輩の相手が俺で喜んでる。それがどうしてだかわかるだろ」
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