魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
私がそう答えると、久遠さんが腰を上げた。


「フライト前のお忙しい時間に、ハンガーまでご足労いただき、ありがとうございました」


私が深く頭を下げてお礼を言うと、目礼で返してくれた。
コックピットから出ていく背中を見送って、肩を動かして大きな息を吐くと。


「迅速な点検ありがとう。芽唯」


後ろから声をかけられ、ギクッとして身体を強張らせた。
恐る恐る振り返ると、神凪さんも立ち上がっていて、副操縦士席の背に腕を預けて私を見ていた。


「し、仕事ですから。別にお礼なんて」


私はまっすぐ前に向き直り、首を縮めた。
副操縦士席でギア操作してる時の神凪さんは、凛としていて結構カッコよかった。
不覚にも目を奪われた自覚があるから、なんとなく強く出られない。
だけど。


「あの……名前で呼ぶの、やめてください」


はたと思い至って、たどたどしく続けると、短い溜め息が返ってきた。


「久遠さんは先に出ていったし、カンパニーラジオは切ってる。誰も聞いてないよ」

「そういう問題じゃなくて、そもそも理由がありません」


神凪さんは無言で、ゆっくり操縦席から離れた。
私の前でピタリと足を止める。
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