魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
スラックスのポケットに片手を突っ込み、背を屈めて顔を覗き込まれ、私は反射的に一歩後ずさった。


「な、なに……」

「つれないな、俺の『彼女』は」


狭いコックピットで、私がそれ以上逃げられないのをいいことに、神凪さんはわざわざ顔を寄せてきて、コソッと耳打ちする。


「っ……!」


耳朶を微かな吐息にくすぐられて、私はビクッと身を震わせた。
反射的に耳を手で押さえて睨むと、彼はやれやれとばかりに肩を竦める。


「俺が毎日ハンガー通ってるの、知らない? 今日はそっちから呼んでくれたから、飛んできたのに」


大袈裟にボヤかれて、私はグッと詰まった。


『せいぜい俺好みに可愛くなって、本気で惚れさせて』


あの腹立たしい挑発から一週間――。
私ははっきり断ったはずなのに、神凪さんはどうしてだか、自分のフライト前に足繁くハンガーにやって来る。
さすがに、声をかけてきて仕事の邪魔をすることはない。
でも、三階デッキから眺めている彼の視線が、居心地悪い。


聞いた話だと、私が休みの時でも、自分が空港に来ていれば訪ねてきているそうだ。
パイロットの凛々しい制服はハンガーじゃ目立つし、整備士の間でもすっかり話題の的――。


「あなたが乗るシップだから呼んだだけで。それに私、彼女とか……お断りしたはずですけど」


気を取り直してじっとりと睨むと、神凪さんがふと眉根を寄せた。
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