魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
「愁生?」


今野さんが不思議そうに彼を振り返り、その視線の先にいる私に気付いた。


「……知り合い?」


私と彼を交互に見遣り、探るように問いかける。


「ああ、ええと……」


神凪さんが、私からぎこちなく視線を外した。


「こいつ……」

「私、お二人が今日乗務されたシップの整備士です」


歯切れ悪く説明しようとする彼を遮って、私は大きく一歩前に出た。


「メインギアの不具合を点検して……実際フライトしてどうだったかなって気になっただけで。すみません。明日航空日誌見るから大丈夫です。お疲れ様でした!」


早口で捲し立てて、目を丸くしている彼女にペコッと頭を下げる。


「え? あの、ちょっと……」


今野さんがなにか言おうとするのを無視して、勢いよく踵を返した。


「瞳、悪い。先に行ってて」


神凪さんが、困惑する今野さんにそう断って、私を追ってきた。
それに気付いて、私は急いで走り出した。
でも、体格差は歴然としている。
ほんの数十メートル走ったところで、後ろ手を掴んで止められてしまった。


「椎名」


神凪さんは、息も切らしていない。
私は振り返らずに、黙って肩で息をした。
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