病める時も健やかなる時も、その溺愛はまやかし~死に戻りの花嫁と聖杯の騎士
 聞こえてきた声に、わたしは混乱し、白いヴェールの下でパチパチと瞬きした。
 
 わたしの戸惑いにお構いなく、まるで身の内から湧き上がる泉のように、膨大な記憶の奔流がわたしの頭の中に流れ込んでくる。

『ユードはね、身分違いのわたくしと結婚するためにあなたに取り入ったの。全部、最初から仕組まれていたのよ』

 この記憶は、いったい何?――わたしはいったい、何を思い出してしまったの?

 現実に戻ろうとわたしは目を開き、白いレースのヴェール越しに祭壇を見上げる。
 高い天井から降り注ぐ、ステンドグラスを通した鮮やかな光。色とりどりのガラス絵が描く、精霊と神の御姿と、建国神話の一場面。ここは帝都で最も格式の高い大聖堂。

 今、わたしは夫となるユードとの結婚式の最中なのに。婚約は一年前に決まり、わたしはユードを愛していたし、ユードもわたしを――

 しかし、突然甦った忌まわしい記憶が、容赦なくわたしを押し流していく。冷たく暗い地下牢の、鉄格子の向こうで彼女――ディートリンデ様の、鮮やかな赤い唇が動く。

『ユードはあなたに愛しているって囁いたかもしれないけれど、それはすべてまやかしよ。あなたはずっと騙されていたの、最初から最後までね。でもそれもこれまでよ。なぜならあなたは――』
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