病める時も健やかなる時も、その溺愛はまやかし~死に戻りの花嫁と聖杯の騎士
「……ユードと建国祭を見物するの、何年ぶりかしら」
「そうですね……じゃなくて、ええっと」
「もう、無理に敬語を改めなくてもいいわ、そのうち直るでしょ」
「……すみません」

 街歩き用の気軽なドレスを纏い、騎士服のユードの腕に手をかけ、二人で夜の街をそぞろ歩く。初代皇帝陛下の霊廟までの参道はすっかり飾り付けられ、赤い灯篭が灯り、昼間のような明るさで、人出もすごい。――昨年は地震の直後で、建国祭も自粛ムードだったから、今年の気合の入りかたは並じゃない。

「俺がいるからヨルクはいらない」

 ユードが言い張って、ヨルクとアニーは少し離れて護衛する。

「四年ぶりですね。あなたはもっと小さくて、まだ少女だった。……でもその頃からとても綺麗でした」
「そう? わたしも初めて建国祭に連れてきてもらって、浮かれてたわ。……懐かしい」
「ええ、俺も、楽しかった。ずっと、あのままお仕えしたかったのに」
「ユードが無駄にモテすぎるのね」
 
 わたしがからかうように言えば、ユードが苦笑いした。――四年前、初めて出かけた建国祭で、わたしたちはディートリンデ様に行き会い、ユードを気に入ったディートリンデ様が無理に引き抜いてしまった。

「ディートリンデ様にとって、護衛騎士は連れ歩くアクセサリーも同じなんです。見目のいい男を周囲に侍らせて、ちやほやされるのが好きなんだ」
「何人もの護衛騎士なんて、わたしはいらないわ。……頼りになる誠実な人が一人ついてくれれば、それでいいのに」

 わたしの言葉に、ユードが微笑んだ。

「俺も、どうせなら好きな人を守りたい。これからは、ずっと離れません」
   
 以前なら、こんなことを言われれば有頂天になっただろうけれど、わたしはこの後、霊廟でディートリンデ様に遭遇し、ユードがディートリンデ様の護衛をする羽目になる未来を知っているので、口角をあげて笑顔を作っただけだった。
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