先生と私の三ヶ月
 一頻り泣いたあと「俺が聞いてやるから、どんな事でも話せ」と先生が言った。
 浮かんだのは結婚式での、幸せな思い出だった。

「結婚式の披露宴の席で純ちゃんの会社の部長さんが冗談交じりに私たちに少子化を止める為にも子どもは三人作って欲しいなんてスピーチで話したんですけど」

 あの時の純ちゃんを思い出して、ふっと笑みが浮かぶ。

「純ちゃん、部長さんのスピーチに物凄く照れていて、それを隣で見て私も照れてしまって。純ちゃんと目配せしながら笑い合ったりして。今、思えばあの時が純ちゃんと一緒になって一番幸せを感じた瞬間でした。これから私は純ちゃんとお父さんとお母さんになって家族になっていくんだって、期待で胸がいっぱいで」

 あの時の私は子どもが産めなくなるなんて考えもしなかった。 
 
「平凡だけど、ベビーカーに子どもを乗せて、近所の公園とかをお散歩するのが夢だったんです。それで、子どもを幼稚園に入れたら、運動会のお弁当は絶対に太巻き寿司を作るの。私の大好物で、母がよく運動会とか、遠足とか特別な日のお弁当に入れてくれたから、同じ事を私もしたいんです」

 お母さんになったら、いろんな事を子どもにしてあげたかった。
 だけど、人生は思う通りにはいかない。

「一度目の流産の時、悲しくて堪らなかったけど、子どもを産む事は諦めなかった。子どもを産んで、純ちゃんとお父さんとお母さんになりたかったから。だから、基礎体温表をつけて、渋る純ちゃんを説得して排卵日のタイミングで夫婦生活をしました。出来たり出来なかったりだったけど、流産してから一年後に二度目の妊娠が出来て、とても幸せでした」

 だけど、まさか二度も流産するとは思わなった。
 それが原因で子どもが産めなくなるなんて……。
 
 こんなはずじゃなかったのにな。
 結婚してからそう思う事ばかり。

 純ちゃんとの事も。
 
 ため息をつくと、先生が頭を撫でてくれた。
 先生は優しい。今夜はその優しさに甘えて、何もかもを話したくなる。
 誰にも打ち明けられなかった純ちゃんとの事でさえ。
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