先生と私の三ヶ月
 応接室を出て、エレベーターホールで立っていると、「葉月さん」と呼ばれた。顔を向けると、先ほどお茶を出してくれた上原さんが立っている。

「もうお帰りに?」
 私の隣に立った上原さんに聞かれた。

「ええ。用事は済みましたから」
「あの、良かったらランチどうですか?」
「えっ、ランチ?」
「私だけ学生アルバイトだから、社員の方とランチを一緒にするのはなんか気まずくって。あの、ダメですか?」
 甘えるように見つめられ、ダメとは言えない。

「そうですね」
 先生に帰りは急がなくていいと言われていた。
 都内に出たついでに中野の自宅にも寄って行こうかと思っていた所だ。

「いいですよ」
「わあ。嬉しい。ありがとうございます。私、上原流美(うえはらるみ)と言います」
「葉月今日子です」
「今日子さんと言うんですか。素敵な名前ですね」
 上原さんが微笑んだ。
 胸元が広めに開いた白カットソーにサーモンピンク色のスカート、それから足元のベージュ色のヒールという組み合わせがファッション誌から出て来たみたいにお洒落で可愛い。

 私はというと、黒田さんと面接した時のグレーのパンツスーツ。いつものTシャツジーパンで来なくて良かったと、上原さんの服装を見て思った。

「それに葉月さんって、スタイルいいですね」
 それは上原さんの方だ。

「さすが167㎝47キロ体型」
 上原さんがクスッと笑った。
 確かアシスタントの条件にそんな事が書いてあった。

「上原さんの方がスタイルいいよ。私、本当は49キロなの」
 昨日、お風呂あがりに測った時の体重だ。風邪で寝込んでいたから体重が増えてしまった。
 もしかして、条件から外れたから、先生に申告しなきゃいけないのかな。

「そうなんですか」
 上原さんがまじまじと見てくる。
「そんなに見ないで。恥ずかしい」
「エレベーター来ましたよ。乗りましょう」
 上原さんとエレベーターに乗った時、デブと小さな声で誰かに言われた気がした。エレベーターの中には若い女性が二人。えっ、まさかこの人たちが?

「葉月さん、どうしました?」
 女性たちに視線を向けていると、心配するように上原さんが私を見た。
「何でもない」
 きっと気のせい。空耳だったんだ。
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