先生と私の三ヶ月
 30分並んでようやくお店に入った。バターと卵の甘い香りがする。うーん、いい香り。待ったかいがあった。

 金髪碧眼のウェイターさんに案内された白いテーブルクロスが敷かれた席はセッティングされた食器がキラキラと輝いていて素敵。一輪だけ飾られたピンクのガーベラも可愛い。フランスに来てちゃんとしたレストランに来たのは初めてだから嬉しい。一人だったら気おくれして入れなかった。

 あっ、壁には写真とサインが飾ってある。きっと著名人とかのだよね。さすが有名店。

「モンサンミッシェルまで来たかいがありました。ここでしか食べられない名物のオムレツを食べられるなんて幸せです」
 向かいの席に座った先生がこっちを見て、にやっと意地の悪い笑みを浮かべた。
「そうか。わざわざ来たかいがあったな。だがな、東京にこの店の支店があるんだよ。だから、東京でも食える」
「えっ! 東京に支店が? 本当ですか? 私をからかってませんか?」
「からかってない。東京にある」
 先生が証拠を見せるようにスマホの画面を見せた。
 確かに東京支店が載っていた。なんか悔しい。ここでしか食べられないと思っていたのに。

「ここでしか食べられないと思ったから、30分も並んだ訳か」 
 小ばかにするような先生の言い方が腹立たしい。だけど、これが先生だ。さっきまでの先生は優しすぎてどうしたらいいかわからなかった。

「そうですよ。ここでしか食べられないと思ったから並んだんです。でも、いいんです。本店の味を知らなきゃ、制覇したって言えませんから」
「何を制覇するんだよ」
「オムレツの制覇です」
「お前は世界中のオムレツを制覇するのか」
「そうですよ。私の野望は大きいんです」
「相変わらず、おかしな事を言う奴だ」
 先生が楽しそうに笑った。今日の先生はよく笑う気がする。
 先生の笑顔はいい。なんかほっとする。
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