先生と私の三ヶ月
 言葉の意味をハッキリと認識した瞬間、心臓が震えた。

 カシャン!
 持っていたフォークが床に落ちた。

「す、すみません。フォークが……」
「そのままで」
 先生が手を挙げて、ウェイターさんを呼び、英語で新しいフォークを持って来てくれるように頼んだ。そんなスマートな対応をしてくれる先生を直視できない。心臓がドクドクと鼓動を打つ速度を上げる。

 今、先生、私の事を好きって――。

「このオムレツ、フワフワ食感がクセになるな。どうだ、ガリ子、美味いか?」
「は、はい。大変美味しいです」
「それは良かった」
 先生が何事もなかったように穏やかに微笑んだ。
 先生は好きだと言った事、何とも思っていないの? 今の言葉の意味を聞きたいけど、恥ずかしくて聞けない。どうしよう、もう先生と目も合わせられないよ。

 とにかく落ち着かなきゃ。グラスの中の白ワインを勢いよく飲んだ。さっきまではぶどうの甘味を感じられたけど、水を飲んでいるみたい。動揺し過ぎて味覚までおかしくなった。落ち着け。ここは何事もなかったようにやりすごすのよ。

「ワイン、お代わり頼むか?」
 テーブルの上の白ワインのボトルを持ち、先生が空になった私のグラスに注いでくれた。
「えっ、だ、大丈夫です」
「荷物、ありがとうな。ホテルで受け取ったからな。フロントに聞いたらたった今、お前が出て行ったと聞いて、慌てて追いかけたんだぞ」
「私を追いかけてくれたんですか?」
「当たり前だろう。お前こそ、なんで待っていないんだよ」
「荷物を届ける事が仕事でしたから。届けたら先生に会う必要はないかと」
「そんなに俺の顔を見たくなかったのか?」
「いえ、そういう訳では」
「じゃあ、俺に会いたかったか?」

 ドクン――。
 鼓動が大きく脈打った。

「ガリ子、頬が真っ赤だぞ。酔ったのか?」
「え、えっと、そうです。酔ったんです。あの、酔いを醒ましたいので、もう出ます」
 一人になりたくて立ち上がった。
 これ以上、先生と一緒にいたら心臓が壊れてしまう。
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