コンクリートに蝉の抜け殻
「俺はさあ」
うん、と、相槌をうとうとしてやめる。いまそれをしたら、汗が顎を伝っていくのが速まってしまう気がしたから。
「蝉の抜け殻の気持ち、やっぱり、あんまりわかんなかったよ」
「そっ、か」
「うん。代わりに、コンクリートや木の気持ちを考えてみたんだけど──これも失敗だった。俺だったら、手放す気になれないから」
わたしは蝉の抜け殻のつもりだったけれど、わたしはわたしで、抜け殻の気持ちを考えようとしたら失敗に終わるんだろうなと思った。思って、え、と変な声が出た。
「それって、あの、保科」
蝉の抜け殻としてのわたしは、コンクリートや木から離れたいと思えない。わたしは、保科に遠くに行かれるのが、寂しいと思っている。離れないでほしいと、思っている。勝手なことに。保科の決めた大事な進路を知った上で、だ。
保科としては、わたしを、──そこまで考えて、勘違いだったら自意識過剰すぎて溶けちゃうなと思った。相変わらず袖口はぷらぷらと揺れていて、ここに抜け殻を置きゆこうとは考えないと頷く。保科じゃなきゃだめだな。そうやって。
「……いま、俺、告白が下手すぎてごめんってなってる」
「ううん、ううん」
ぶんぶんと首を振る。手も胸元で左右に振る。
「ふは、袖が大暴れしてる」
「あっ、まくり損ねてたっていうか」
「……まくるの、苦手なの?」
実際そうだけれど、強がってできると言おうとした。そこで、気がついた。あ、これ、さっきの保科の言葉はそういう意味だったんだ。
「──うん。苦手だから、やってほしい」
あつい。びっくりするくらい、あつい。わざとらしい自分、ちょっと嬉しそうな保科、永倉、と呼んでくれる、声。一瞬ふれた、あつい指先。