コンクリートに蝉の抜け殻
「蝉ないてんね」
「だね」
「……暑いね」
「ね、ほんとにね」
「永倉。連絡先ちょうだい」
あまりに自然に言われたから、相槌すらも返せなかった。固まる。相槌は、案外、しっかり思考の働いているときでないとうてないものなんだと知った。
「あのさ、性格わるいんだけど」
連絡先交換に対して返答できないうちに、保科が次の言葉を持ってくる。なんとか内容を頭に叩き込もうと、働かない脳をフル回転させた。
「永倉、強引に話もってったら受け入れてくれるんじゃないかなと思って実践しちゃった」
「……え?」
「前回一緒に帰ったときのことで、俺ばっか話してたのをごめんって言ったら、永倉は返答できなくてごめんって言ったじゃん。でもそれ聞いて、だったら、永倉が返答できないくらい緊張させたり、返答に困らせたりすれば、いいように進めちゃうんじゃないかなって、わるいこと考えた。だからやっぱ、俺がわるいよ」
わたしたちは、お互い、前のことを引き摺っていつまでも謝ってしまう人間らしい。そういうところは、まったくの逆タイプなわたしたちの合致した思考回路を、よく表しているように思う。
たとえば、緊張すると黙るか喋るかが逆なのに、相手のことを手放せないところが同じだとか。