コンクリートに蝉の抜け殻
ふと、ワークを解く手が止まった。
数Ⅰはわりと自信があるけれど、数Ⅱになると途端に難しく感じる。思考の割合が数学にだいぶ傾いて、けれど、まだ思い出に浸っていたかった。
ふうと息を吐くと、煩いくらいの蝉の鳴き声が遠のいた気がした。
そうしてまた、回想。
「なーがくらっ」
「わ、保科?」
「うん、おつかれさん」
「お疲れさま」
保科の手元には、サイダーのペットボトル。炭酸飲料が好きでよく飲んでいると、前に言っていたっけ。
そこで、視線に気がついたらしい保科が放つ。
「ん、喉乾いたん?」
「あっ、ううん。炭酸、ほんとに好きなんだなって思っただけ」
「ああ、これね。強炭酸、まじで最強レベルで強かったよ。おすすめ」
「今度飲んでみようかな」
「……いまから飲む?」
「いまから?」
そ、いまから。いたずらそうにわらって、一緒に帰ろうよと言う。
「いいの?」
「うん。飲んでるとこの反応見たい」
「……面白くないよ」
「そう? だって永倉、本当はサイダー苦手だろ」
なんで知ってるの、と言いかけたから、わたしの負けだった。知った上でおすすめしてきた保科の表情の変わらなさを見習いたい。わたしの、苦手だけど飲んでみようと言う、その反応を含めて見たかったのだろう。
「うそうそ、好きなの選びなって」
「……紅茶にする」
「はいよ」