【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
「これまで私はずっと、国のために尽くしてきた!これから先だってそうだ!あと少し!あと少しで私の娘が全てを手にする……っ!王太子妃となり、この国をもっと、豊かで潤った国に変えられるんだっ!だから――――」

「そんなの全部嘘っぱちよ」


 ポツリと呟くような声。レイチェルが涙を流しながら、己の父親である伯爵を睨んでいた。


「何が国のために尽くしてきた、よ!何が王太子妃よ!国を豊かにする?そんなの全部……全部自分のためじゃない!自分が良い思いをするためでしょ!?私には分かるわ!親子だもの!私も一緒だもの!」


 レイチェルは目の縁を真っ赤に染め、声を荒げる。


「利己的で、ずる賢くて、どうしようもない!この期に及んで返金すれば許される!?私が王太子妃になる!?無理に決まってるでしょ!お父様はね、私と一緒に地獄に落ちるの。お父様のせいで苦しんだ人のために、罪を償わないといけないのよ!」


 父親だけでなく、己をも断罪する凛とした声。次いで二人分の嗚咽が、広間に響き渡る。


(伯爵は自業自得……そう思えなくもない)


 関係のない自分にも害を及ぼそうとした利己的な人間。脅された貴族や、今ここにいる文官や騎士の中にも、ざまぁ見ろと思っている人間が、少なからずいるだろう。


(でも)


 レイチェルは目の前で床に蹲り、体を震わせて泣いている。
 クララは遣る瀬無さを胸に、そっと目を伏せたのだった。
< 209 / 250 >

この作品をシェア

pagetop