初恋の記憶〜専務、そろそろその溺愛をやめてくださいっ!〜
また、なかった事にされたら…。怖くて眼をギュッと固く瞑(つむ)る。
「…」
しばし時が止まったかのようだった。
だ、ダメか…っ。いよいよ諦めたわたしがその手を引っ込めようとした時、グッと控え目にハンカチが引っ張られる感覚があって、ビックリして手を離したと同時にこれでもかと眼を見開き彼を見る。
彼は気まずそうに恥ずかしそうにわたしのハンカチで自身の涙を拭うと、
「…ありがとう」
わたしの耳にギリギリ入ってくるくらいの小さな声でお礼を言ってきた。
わたしはそれだけで天にも昇れるぐらい舞い上がった。
「あ、あのっ、」
この人ともっと話したい!
そう思ったのとほぼ同時に公園の時計が18時の時報を告げた。
ヤバいっ!帰らなきゃまた怒られる!
「あのっ、ごめんなさいっ!失礼します!」
「え、ちょっ、」
彼が何か引き留めようとしてくれたみたいだけど、それどころじゃない。
わたしは一目散(いちもくさん)に「家」へと走った。