龍神様の贄乙女
『ああ、そうだな。俺の大事な者を二度までも殺そうとした罪は重い。消してしまえたらすっきりするだろうよ』

 一度ならず二度までも。彼らは悪びれもせず自分達の安心のためだけに山女を贄に差し出してきたのだ。

(そんな腐った里など、なくなってしまえばいい)

 さして深く考えもせず直情的にそう思ったと同時――。

『あの里は父様(ととさま)逆鱗(げきりん)に触れたのですね? 分かりました。では、わたくしの誕生とともに力を失った父様(ととさま)の代わり。(なぎ)がその願い、叶えて差し上げましょう』

 そんな声がして――。

 辰は思わず『駄目だ、凪!』と声の主に手を伸ばしていた。

 天候が大荒れになるたび、腕へ抱いた卵に辰はいつからかその天候とは真逆の願いを込めて〝凪〟と呼び掛けるようになっていた。

 生まれたばかりの龍女は、その名を名乗って父親の願いを聞き届けたと伝えてきた。

 だが、辰がその名に込めた願いとは裏腹。
 凪は辰を川の外へ弾き飛ばすと、大雨で大幅に増した川の水を引き連れて、ごうごうと荒ぶる濁流となって里の方へと下って行った――。


***


 辰が目覚めた時、山女とふたり(ほこら)へもたれ掛かる様に座っていて。
 傍に、山女のために辰が用意した桐の木箱(ながもち)と、大量の宝飾品が散らばっていた。

 辰の腕に(いだ)かれる形で山女はすやすやと寝息を立てていて、その寝顔にホッと吐息を落としてから、夢うつつの中での出来事を思い出した辰だ。
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