【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
「愛良、落ち着いて。もう怒りの方が強すぎて怖くなったりとかはないから」

 実際、戻ってくるとき正輝君に労わるような背中ポンポンされた時も、特に怖いと思わなかったし震えも出てこなかった。

 何より、当の本人である岸に対してはとにかく怒りしか湧いてこない。


 もちろん怖いって思う部分もあるけれど、それを軽く上回るほどの怒り。

 有香に、私の友達にしたこと。

 私の意志に関係なく自分の女扱いしたこと。

 そして何より見える位置にキスマークなんてつけやがったこと!


 全てにおいて怒りしか湧いてこない。

 そのため男が怖くなったりはしていないから大丈夫だと愛良には伝える。


 でも、その会話をみんなも聞いていたわけで……。

「……やっぱり、何かされてたんですね……」

 低い声に、そろそろと顔を向ける。


 浪岡君が目に怒りを(たた)えながら落ち込むという器用なことをしていた。

「えっと……大丈夫だから、ね?」

 とにかく心配させたくなくて、今は無事戻ってこれたんだから問題ないんだと安心させたくて「大丈夫」を繰り返す。


 なのに、空気が読めないのか忍野君が暴露してしまった。

「何かされたって、あれだろ? 首にいっぱいキスマークつけられてたやつ」

「⁉」

 忍野君は言ってから恥ずかしそうに視線を落とす。


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