年下彼氏の結婚指導
 そして週明け月曜日。
 華子はビクビクと出社した。
 ……「何もありませんでしたよ」という、平然とした態度は取れそうもない。
 しかしそんな華子の心情を他所に、翔悟はいつもと変わらず爽やかに挨拶を返してきやがった。
「おはようございます」
「……おはよう廉堂君」
 
 ちょっとだけ悔しくなる。とはいえ。
(良かった……取り敢えず言った事は守ってくれるみたい)
 土曜日の朝。帰り際に再三、仕事中は「絶対に」親密な雰囲気は出さないで欲しいと言い募っておいて本当に良かった。


『嫌です』
 そしてそう口を尖らせる翔悟の説得は大変だったが……

『社内恋愛は自由だって聞きましたよ』
 誰だそんな話を研修に盛り込んだのは。
 片手で頭を押さえながら、華子は項垂れた。
 もう片方の掌を翔悟に向け、一つ一つ噛み砕くように言葉を紡ぐ。
『確かにそうだけどね』

 いい事? と腕を組み首を傾げる。
『仮にも指導関係にある私たちが、期間中に──だなんて、節度が無いでしょう?』
 翔悟は華子の真似をして、腕を組み首を捻ってみせた。

『別に就業時間中じゃないんだけどなー……はい。分かりました、睨まないで下さい。じゃあ、あと一週間内緒にすればいいんですね?』
 うぐっと喉が鳴るのを何とか堪え、華子は渋々頷いた。
『うん、そうね。それならまあ……大丈夫かな』
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