年下彼氏の結婚指導
11.
 向かいで驚く堅太を一瞥して、翔悟はいつもの綺麗な笑みで口を開けた。
「初めまして先輩? 廉堂 翔悟といいます。仁科さんから新人指導研修を受けています」
「研修……廉堂……」
 社内行事であるそれに、堅太もピンと来たのだろう。ああと漏らし頷いている。
 けれど、それだけ言いクルリと会計へ向かう翔悟に、華子は慌てて席を立った。

「ちよっと、廉堂君。レシート!」
「あ、そうだ仁科さん。午後の準備手伝って貰っていいですか?」
 ……はい? 
(準備って何だっけ?)
 勢いよく振り返る翔悟に、華子の反応は鈍った。
「……えっと、勿論いいけど」
 準備とは何だとか、それはともかくレシートと口にする前に、翔悟にさっさと腕を掴まれてしまう。

「じゃあ急ぎましょう」
「はいっ? もう?」
「すぐです。食事は終わったでしょう?」
「それは……終わったけどっ、」

 状況を飲み込めない堅太を取り残し、華子は翔悟に引き摺られるように店を出た。

「廉堂君、その……一人だったの?」
 堅太を置いてきた反動で思わず口にする。
 あの店はどちらかと女性受けするような店内で、男一人というのは少し違和感があった。それに今日は最終日。部内の誰とお昼を摂っても不思議はないのだ。
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